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梅雨期の、雨の晴れ間特有の、あぶらっこい陽射しともおさらばしてから1週間。本格的な夏の匂いが、街中に溢れていた。穏やかで力があって、苦しいほどの草の匂いがする。
狐塚さんと恋人(俺の中では“期間限定”がつく)ものになってから、早いものでもう少しで1か月になろうとしている。
恋人になってから何が変わったかと言われれば、土曜日にバイトが終わったら狐塚さんの家に泊まるようになったことくらいだ。俺たちが会えるのは恋人になる前と同じ、週末だけ。会えない平日は俺が学校のことに集中したいから電話もメールもしないでという約束を、忠実に守ってくれている。
今は、だ。これから学校が夏休みに入ろうとしている今、俺の頭の中はずっと同じ悩みが居座っている。どう誤魔化せばいいのか、どう嘘をつけばいいのか。
豊満な夏の風が吹き抜ける道を歩きながら今日も同じことを考えていたら、あっという間に着いてしまったイタリアンカフェ。何となくドアを押す腕が重い。狐塚さんに会いたくないからじゃない。むしろ早く会いたいと思ってしまってるくらいには、もう狐塚さんへの想いを自覚していた。
会いたいからこそ、会って嘘をつかなければいけないことが苦しい。でも今はまだ、何も言えないから仕方ない。狐塚さんのためを思ったら、早くすべてを打ち明けて別れたほうがいいって分かっているのに。
それが出来なくて、もっと甘い夢を見ていたくて、今のぬるま湯につかっているような状態を引きずっている。
「おはよ、凪」
「狐塚さん、おはようございま~す」
「だからお前、もう俺のこと名前で呼べって言ってんだろ」
「恋愛赤点の俺にはまだハードルが高いんです~!」
「ふっ、可愛いやつ。俺はあまり気が長くねーんだから、あまり待たせんなよ」
あ、今日もすぐに笑った。あんなに狐塚さんによって重宝されていた笑顔が、恋人になってからは大安売りだ。心臓に悪いからあまり安売りしないで頂きたい。
「そういえばお前、夏休みはいつからだ?」
もう来たかこの話題。ずっと悩みの種だった話題を早々に出されて、一瞬言葉につまるがすぐにポーカーフェイスを装着する。
「うち、進学校で寮じゃないですか~。他県から来てる生徒もたくさんいるし、お盆だけ実家に帰る生徒がほとんどなんですよ~。夏休みは事実上8月30日からですけど、補習とか夏期講習とかあるので夏休み前とあまり変わらないんですよねぇ」
俺って本当に天才。さっきまでどうしようか悩んでたのにぶっつけ本番でさらさらと嘘が出てくるんだもん。将来、詐欺師にでもなろっかな。将来なんてないけど。
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