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第9話
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一方その頃、王様は地方のお城に到着しました。
そのお城は王様がまだ幼い頃に家族と住んでいたお城で、当時と変わらず静かな農村の中にひっそりと立っていました。王様はわずか数人のお供を連れて、その懐かしいお城に帰ってきたのです。お城の中には金銀財宝が山のようにありました。それは王様がまだ幼い頃から王様に仕えていた家来達が「或る人」には決して渡すまいと、このお城にこっそり移していたものでした。
王様はそれを見て涙を流しました。なぜならどのお宝も家族との思い出が詰まっている[思い出の品ばかり]だったのです。王様は家来達にありがとうと言いました。
王様は1日目でかなり良くなりました。
それからというもの、王様は少しずつ外でお散歩をするようになりました。村人たちとも仲良く、次第に畑仕事や乳搾りを手伝うようになりました。雨の日には村の子ども達に読み書きを教えるようになりました。
とても平和で楽しい日々を過ごしました。
そんな暮らしをするうちに王様は感情を取り戻し、みるみる体調も良くなっていきました。
家来達は心の底から安心しました。
王様は元に戻ったのだと、
しかし、1つだけ変わらないことがありました。
王様は変わらず「或る人」を愛し続けていたのです。
王様の日記に「或る人」の名前が出ないページは1ページだってありませんでした。
王様は毎晩、「或る人」のことを想って時には深夜まで眠れませんでした。
でも、誰にもこのことは言えませんでした。言えばこの暮らしは壊れてしまう、今度こそ「或る人」のことを忘れさせられてしまうかもしれないと思ったのです。
王様は毎日、たった1枚の写真を眺めていました。それは唯一手元に残った「或る人」の写真でした。中央のお城を出る時、他の写真は家来達に全て焼かれてしまいましたが、これだけはポケットに入れて持っていたので燃やされずに済んだのです。王様はこの写真を金庫に入れて大切にしました。
家来達は王様に届く手紙を1枚残らずチェックしていました。王様が「或る人」を思い出して、また狂ってしまわないように「或る人」の名前が1回でも出ている手紙は燃やしました。一部は当たり障りのない文章だけ自分達で写し書きして王様に渡していました。
時々、「或る人」本人からの手紙がありました。家来達は中身の確認さえせず、全て燃やしました。それどころか灰を水に溶かして肥料に混ぜて畑にまくほど徹底しました。
これには家来達の「或る人」に対する憎悪もあったのでしょう。
王様の元に「或る人」からの手紙が、「或る人」の想いが、届くことは決してありませんでした。
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