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隣を歩く善さんは時折俺の方を見ながら話す
少し俯いた視線がゆっくりと俺の方に向けられるのを見ると、視線をそらしてはいけないような気がして俺も時折善さんを見ていた
「オーナーから格好良い子が入るって聞いてたけど、それって爽太君の事だったんだね」
「…え?俺ですか?」
格好良い子って言われてはいそうです、なんてもちろん言える訳がないし、というかそうだとも思ってない
「うん。…君で良かった」
いきなり名前ではなく君、と呼ばれた事と少しだけ冷たく怯えた様な雰囲気に息が詰まった
それも直ぐに拭われていつもの柔らかい雰囲気に包まれる
「ねぇ、大学生活はどう?」
俺がさっきの事について口を開こうとすれば、話をすりかえる様に問いかけられる
善さんがこんな風に他人の言葉を遮るのは初めて見た気がする
だか、そう聞かれてしまえばそれ以上聞く事もできず
「楽しいですよ。でもまぁ、思い描いてたのとは違いますけど」
それは高校生活と一緒で、思い描いていたものはもっと輝いていて何かにがむしゃらになって
その時が全てと言える瞬間が来る日も来る日も訪れるものだと思っていた
けどそれは空想の世界で、現実はもっと無気力で夢や希望を持ちながらも適度にという言葉が後を回る世界だ
「あはは、僕もそうだったなぁ。
理想は自分が考える完璧なものだから、それより劣ってしまう事は仕方ないんだけどね」
「…妙にしっくりきました。善さんは?」
善さんはとても頭の回転が良くて、話す事もきちんと頭で一度整理してから話している気がする
それでも返答が遅れるとかは全く無く、むしろ心地がいいくらいテンポよく会話が弾む
「うん。爽太君と話してる時間は好きだよ」
真っ直ぐな言葉に戸惑っていい返し方が分からない
こういう時、善さんなら何て答えるのだろう
そして楽しいという事について、否定も肯定もしないその相槌が胸の奥にモヤモヤとしたものを残した
そして俺は焦って戸惑って結局、良かったです、としか返せない
「話してたらもう着いちゃったみたい」
そんな俺の様子に気が付いているはずの善さんは一切触れる事なく、さらりと身をかわす様に話を変える
善さんの事が全く分からない
まだ会って数日だし話した事も少ないけれど、こんなにも考えている事が分からない人は初めてだった
「いらっしゃいませ…って2人仲良く出勤?」
穏やかに出迎えてくれたマスターの声でそんな考えは直ぐに振り払われた
「あはは、たまたまそこで会ったんですよ」
何気なく言った善さんの言葉は縮まったように思えた距離をまた、一歩二歩と離された気がした
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