アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
. 千紘side
-
「ぜーん、起きて」
相変わらず不用心な善はなんと、家の鍵を開けたままにしておいたらしい
起きているか心配になり早めに来て電話をすれば入って来ていいと言われて疑いながらもドアノブをひねればこれだ。
「んー。………っ、ちひろか…びっくりしたぁ」
肩を優しく揺すって起こせば、俺を見るなりに怯えたように体を引き震えさせた
けれどそれはすぐに収まって俺だと分かるとヘラリと笑った
「いつまで寝てるの。爽太たち待たせちゃう」
「そうだね、来てくれてありがとう」
だらだらと布団から出てチェストから着替えを出す。
パジャマを脱いだその肌にあの日の傷跡が刻まれていてなんとなく目を逸らしてしまった
「……ねぇ、あの日の事さ、本当に気にしないでね」
俺の反応に鋭い善が気付かない訳がなかった。
まだ癒えていない心のままで、何でもないようにどうして笑うのだろうか
「千紘は優しいから、きっと俺がこう言っても気にするんだろうけど本当に大丈夫だからね。
俺男だし、あんな事滅多にないよ」
「男とか女とかそんなの関係ない。それに滅多にじゃなくてこの先あんな事があってたまるかよ」
もっと、違う言い方が出来ないのか、俺は。
…ほら。善が困ったように笑ってる
「善はもっと自分を大事にして」
そう言うと善は完璧で穏やかな笑顔を浮かべて、冷たい言葉を発した
「大事にする事って必要なの?俺には…分からない。」
愛情を受けずに育った善は、人に優しすぎる。
それは元の性格もあるんだろうけどきっと、嫌われるのが怖いからというのも一つだろう
人には優しく出来るのに、自分には残酷だ。
「必要だよ。そんなんじゃ心が壊れる。
自分を大事にするってことは生きることと同じなんだよ」
善の目が微かに開かれて、髪をぐしゃ、と握った
そんな行動をするのは今まで一緒にいた中で初めてだったからどういう気持ちでいるのか、分からない
「…うん……ごめん、千紘…俺は分かんないよ」
「何だよ、ごめんって」
何だよ、本当に。
分からないと言った、ごめんと言った善の顔は長い髪に隠されてしまい見えなかった
「……爽太になら、言えそう?」
「え………?」
そう聞くと下を向いていた顔がぱっ、と上げられて今度は俺を真っ直ぐに見つめた
「俺はさ、善が爽太と出会って本当に良かったと思ってる。俺には言えないこともきっと爽太になら言えるでしょ?
……正直、俺の方が善と長くいたのにってちょっと悔しいけどそれよりも嬉しい気持ちの方が大きい。」
善の漆黒に包まれた目が左右に揺れる
その瞳に映る俺はどんな顔を
しているのだろう
「……千紘は何でそんな俺に良くしてくれるの?
こんなのにそうまでしてくれる理由が無いよ」
本当のことを言ったらきっと善を困らせてしまうだろう
そして、きっとまた自分を責めてしまうだろうから
「小さい時からずっと、善のことが大事だから。
理由は俺が、善がいないと駄目だから」
今日も隠した心、きっと誰にも気づかれないまま散っていくのだろう
でも、それでも良かった。
「千紘は、本当に馬鹿だ」
嬉しそうに、泣きそうに、恥ずかしそうに
笑う顔が見れたから
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
86 / 138