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―――
それでも寝たフリを続ける。そうすればいつの間にか本当に寝てしまっているかもしれない。
全く反応しなければ、俺が寝ていると判断して藤堂さんも眠れる。
「眠れないのなら、話を少し聞かせてやろうと思ったんだが、寝ているか」
「えっ……あ」
誘惑に負けうっかり目を開けてしまい、見透かしたようにククッと笑われた。
「やはりな。お前は寝たフリが下手すぎる。まぁ子守唄感覚で聞いていろ。
ある男には6つ下の弟がいてな。男はその弟をとても可愛がっていたんだ。だが、その弟は体が弱くてよく病気をする奴でな、よく入院もしていた。ある時、その兄弟に不幸が訪れてしまう。男が15の時、両親が殺されるんだ。残された兄弟は児童養護施設へと送られ強く生きた。きっといつか幸せになれると信じて」
親を殺されて施設で…って俺と同じだ。似た境遇に胸がギュッと締め付けられるような苦しさを感じる。
似た経験をした人が他にもいるんだって悲しくなる。
藤堂さんの話すその兄弟は幸せになれたんだろうか。
「その男は幸せになれたと思うか?」
えっ…、そんなの俺が分かるわけない。でも……
「はい、たぶん…。だって幸せになれないとその人が可哀想だ。ツラい思いした分、幸せになれないとっ」
「っ、そうだな…。ならば、お前も同じだ、竜」
「ッ…!」
「入院の日が決まった。話の続きはその後で聞かせてやる。週末の金曜日から入院だからな、必要な物があれば言え。用意する」
週末!?
もう曜日は変わり月曜日で、週末まであと数日しかないじゃないか。
というか、そもそも入院とか手術ってそんなに急に決まるものなの?
当事者の俺はそんな話全く聞いてないけど。
翌日。
珍しく欠伸を繰り返す藤堂さんが、どうしたんだと部下たちに心配されていたなんて知るよしもなく。
静かな広い部屋に1人だと暇で、つい色んなことを考えてしまう。
それはこれからの夕食の献立だったり、手術のことだったり。そんなに深刻な病状ではないのだと分かってはいても怖いものは怖い。
失敗されて死んでしまうかもしれない、なんてネガティブな思考にいきついてしまう。
でも手術中だったら麻酔で意識はないから苦しまずに死ねるかも。
ってこんなこと聞かれたらきっと怒られちゃう。
怒らせるのも嫌で、言われた通りに必要だと思うものを考えてみる。
けれど、スマホ以外に思い付かなくて。
昔から欲は無い方で、生きていく上で最低限必要な物しか要らない。
ここに来る前は、皆が当たり前に使いこなしているスマホだって持ってなくて、持っているのはテレホンカードで連絡手段は公衆電話だった。
あとは病院内では音は出せないだろうからイヤホンくらいか。
入院したら、きっと暇な時間は今よりも多い。
スマホアプリのゲームくらいしかすることはないだろう。
スマホ、充電器、イヤホン…
これくらいか。でも全て自分だけでは用意できない物で、お願いして用意してもらう他にない。
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