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「ああ…昨日の…」
風見くんは学校の制服を着ていた。どうやら学校帰りらしく、運命的にこの信号待ちの瞬間に出会ってしまったらしい。
コンビニの制服を着ていない風見くんに会うのは初めてで、どこか新鮮な気もする。
俺はかなり動揺していたが、とりあえず得意の営業スマイルで挨拶を返しておいた。すると、信号は青に変わり、なんとなく並んで歩き出す。
「仕事終わりですか?」
「ああ、うん」
「今日は残業無いんですね」
コンビニの店員というのはこんなにも個人の日常を把握しているものなのか。
「いやぁ、まぁ。今日は用事あったから早く上がってきたんだ」
「あ、そうなんですか」
「風見くんは、部活帰りとか?」
「えっ」
「え?」
なぜ驚かれているのかわからない。
風見くんの見開かれた目に苦笑を返しながら、思考を巡らす。
営業トークならピカイチ…ともいえないが、この俺が何か地雷を踏んだなんて考えられないが。
「な、何?」
「あー…なんで、俺の名前…」
「え?あぁ、昨日コンビニで名札見たから」
それで驚いていたのか。
理由を説明してやると風見くんは、急にパッと笑顔になる。
「名前、覚えててくれたんですね! 嬉しいです!」
「えっ……まぁ…あはは」
これは、余計な期待をさせてしまっただろうか。
勝手に申し訳ない気持ちを抱きながらも、今は紙を返すチャンスだと思い立つ。
「あのさ、昨日の紙…」
「俺、テニス部です!」
「っえ? あ、そうなの?」
…この俺がタイミングを逸してしまった。
「硬式?」
「はい。来週大会なんです」
「へぇ、そうなんだ。じゃあこんな早く帰っていいの?」
「はい、俺は大会出なくて、先輩方の応援だけだから…」
「え?…えっと、君は何年生なの?」
「高一ですよ」
口から歯が飛び出るかと思った。
あまりにびっくりしすぎて、口から気の抜けた相槌が出る。それでも、風見くんは気にせず話を続ける。
「うちのテニス部はシード取るくらい強くて…」
こここ……高一…。それって高校一年生?えっと確か俺は今年で23歳になるよな。
やばくない?何歳差?六歳差か?
恐ろしい。犯罪どころの話じゃない。その年からみたら俺なんてマジのおっさんだ。しかも毎日残業でやつれた顔見られてんだから、もっと年上に見られていてもおかしくないのに。
これはやばいやつだ。
俺は絶対、からかわれている。
「中学んときの県大会で…」
「風見くん!!」
「っわ……は、はい?」
女子高生に騙されるならまだしも男子高生なんて…同僚の町田に知られたら絶対にからかわれる。生涯をかけて。
俺は素早く風見くんの手を握ると、その手にポケットに入れた紙を握らせてその胸に突っ返す。
「こういう個人情報は受け取れない。それと、あまり大人をからかうもんじゃないよ。……じゃ」
風見くんの呆然とする視線を感じながら、動かせる限り早く足を伸ばして早歩きした。
……もう、あのコンビニには行けないな。
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