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イチゴ牛乳がない。
はぁー、と盛大なため息が出た。なんで大人の集まる会社の自販機でイチゴ牛乳が売り切れるんだよ。ありえねぇだろ。大人はみんなコーヒー飲むんじゃねぇのかよ。
「おーどうした戸川、彼女にフラれた?」
「……ちげぇよ」
俺がフってやったんだよ。女じゃないけどな。
同僚の町田は今から退社するようだった。
時刻は午後六時。安定の定時帰り野郎だ。
「お前さぁ、最近ため息多いよ? そーいうの良くないと思うなぁ、会社的に」
「はぁ? 会社的にってなんだよ関係ないだろ」
「いやいや、こっちまで不幸が移るっつってんの。なんかあったなら話聞くよ? 俺らマブダチっしょ」
「え、そうなの?」
とりあえずイチゴ牛乳の次に好きなコーヒー牛乳で妥協し、肩を組んできた町田の腕を振り払う。
…確かに、あのコンビニに行けなくなってから甘いもんが買えてないんだよな。それでため息が出んのかも……。
あの高校生、バイト辞めてねぇかなぁ。
「ちっ、つまんねぇの。人の不幸は蜜の味ってね」
「残念でした、別に不幸じゃねーよ。……ってか、帰るんだろ? じゃあな、おつかれ」
「はーい、おつかれさん」
町田との軽いやり取りも、慣れたものだ。最初はスキンシップの多さに一々苛々していたもんだが…。
…なんだか、今日はやる気が出ない。仕事は明日に回して、久しぶりに早く帰ってスーパーに甘いもんでも買いに行こうかな。
そう決めると行動は早く、鞄に書類を詰め、お疲れ様でしたと挨拶して会社を出る。
うちの会社は比較的自由な方で、仕事がこなせれば退社時間は特に決まっていない。それだけが救いだ。
とりあえず、あそこのスーパーにはショートケーキは無いからプリンでも買って……。
「お久しぶりです」
「っわ、え………」
トン、と肩を叩かれ、振り向いたのが間違いだった。
「えっと…お元気でしたか?」
悲鳴を上げなかったことを褒めて欲しい。
人通りの多いこの信号でまた再会することになるとは、少し思っていた。しかし、声をかけられるとは思っていなかった。
一週間ぶりに見るその男…風見くんは、少し気まずそうな顔で笑った。
その表情に、なんだかすごく悪いことをした気分になる。
「ひ、久しぶり……まぁ、元気だよ」
「そうですか。……あの、最近、コンビニ来てくれませんよね」
「それは……うん」
こういう時、なかなか信号は変わらない。
「僕のせい、ですか……?」
「…………うん」
「ですよね…」
こういう高校生には、正直に、まっすぐ言ってやらないとわからない。
どうせ友達に言われた罰ゲームとか、話題作りとかだろう。俺がターゲットにされた理由がわからないが、とりあえず適当にあしらうに限る。
「でも僕、その…本気で……諦められなくて…」
「……」
「あの、友達とかでも、ダメですか? いや、本当は恋人になりたいんですけど……」
「っちょっと! 待って!!」
「え?」
こいつ、どこまで俺に恥をかかせる気だ…!
ここら辺は俺の会社の人間だっているかもしれない。いや、いなくても、お前の会話内容を聞かれたら恐ろしい誤解をされちまうだろーが!
” 恋人 ” なんて生々しい単語は車の音にかき消されたことにしよう。
「とりあえず……場所変えて話そうか?」
「は、はい!」
その嬉しそうな顔も、どうせ演技なんだろう。
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