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「ほら…シミ抜き終わったぞ」
話をそらすように、まっさら…とまではいかないが大体綺麗になったシャツを広げてみせた。
すると、風見くんも空気を察したのか、「ありがとうございます」と言い、そのまま自然にシャツ……ではなく、俺の腕を掴んでグイと引き寄せる。
「ちょ ……っ…!!」
抵抗する暇もなく、俺の体は風見くんの方へ倒れ込む。それから後頭部を支えられ、顔を上げられた。
次に風見くんが何をするつもりなのかすぐに理解して、咄嗟に片手で風見くんの唇を覆う。
「うむっ……」
「な…何しやがるテメェ!!」
「っ……きす、を」
「ハア!?」
バクバクとうるさい心臓を誤魔化すみたいに、目の前の風見くんを睨みつけた。
すると、掴まれた後頭部と腕の力が弱まり、ふわりと優しく離される。
慌てて風見くんから距離を取ると、彼は少し傷ついた顔をした。自業自得なのに。
「お前な……やっていいことと悪いことがあんだろ」
「……すいません」
「はぁ……マジでビビった」
無意識に腕で口元を覆い、ため息をつく。俺の唇は俺が守らなければ。
叱られた犬のように落ち込んでいる風見くんに、地面に落ちたシャツを拾い渡してやる。すると、今度は素直に受け取ってくれた。
「……本当に、すいません。我慢できなくて…」
おっさん相手に我慢できないって…理解できん。
「………もう、いいから。早く帰れ。遅くなると親が心配すんだろ」
「…そう、ですね」
また、一気に気まずい雰囲気に戻ってしまった。
風見くんがシャツを着るのを見届けた後、一応玄関まで見送りをする。
……ちょっと仲良くなれるかもって思ってたけど、やっぱり、無理だ。絶対無理。
「…んじゃ、気をつけて帰れよ」
「………はい」
「………」
「……お邪魔しました」
ずっと俯いたまま、風見くんは頭を下げて出て行った。マンションの廊下を歩く足音が、素早く遠くなっていく。
……もう今度こそ、会うことはないだろう。
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