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「…風見くんてさ、意外と小悪魔だよな」
「え?」
「急にキスしようとしてしたり、手に口付けしたり、すぐ泣くし……こっちはもう振り回されっぱなしだよ」
「……ははっ」
え、そこ笑うところ?
責めるような俺の視線に気づいたのか、風見くんは「いや」と前置きして話し出す。
「いっつも俺の方が、理一さんに振り回されてばっかだったから……理一さんが俺のこと考えて、頭抱えてくれてるのって……すごく、嬉しいです……すいません」
「……そんな笑顔で謝られてもなぁ」
「すいません、本当に嬉しくて……ははっ」
「……そう」
…なんで俺は、23にもなってこんなこっぱずかしい会話をしているんだ。
ほんのりと甘いこの空気に耐えきれず、風見くんの空のコップを入れ直してこようと立ち上がる。
「風見くん、お茶お代わりいる?」
「あ…はい、お願いします」
「それと……腹減ってる、よな。出前でも取るか」
「いいんですか?」
「うん、ちょっと待ってて」
自分でもなぜ、こんなに彼に構うのかわからない。
彼に告白されるまで、本当に退屈だった。将来はバリバリ働いて出世して、エリート街道まっしぐら、なんて思っていたのに、現実はそんなことなくて……。
だから多分、どこかで風見くんに刺激を求めているのかもしれない。
「やな大人だな……」
お茶を入れながら、一人苦笑した。
高校生の純粋な愛情を、日常の刺激だなんて……。
とりあえずピザと定食屋のチラシを持ってリビングへ戻ると、ソファに風見くんがいない。部屋を見渡すと、タンスの上の写真たてを眺めていた。
「…あんまジロジロ見んなよ」
「わっ、す、すいません! えっと…この写真、ご家族ですか?」
「ああ、地元が北海道でな。家族はみんなそっちにいる」
「へぇ……」
こいつに家族の話をするのは気がひけるが、あんま気を使いすぎるのも面倒だ。
幸い、風見くんはあまり気にしていないようで、何が面白いのか写真立てを眺めてはニヤニヤと笑っている。気色悪い。
「……俺、両親が死んだ後、しばらく叔母の家で暮らしてたんです」
へぇ、と相槌を打ちながら、ソファに腰を下ろす。正直早く飯が食いたいが、これは我慢しなきゃいけない流れだね。
「叔母は、あまり俺たちの家族が好きじゃなかったみたいで……高校生に上がったらすぐに家を追い出されました。仕送りとかは送ってくれるんですけど……」
一緒に暮らしてやればいいのに、ひどい親戚もいるもんだな。
「……たまに、すごく寂しくなる時があるんです。アルバムとか何回も見返して…でも、家族の声とか、話し方とか……だんだん忘れてっちゃうんです………」
「………」
「薄情ですよね……」
どうして、初対面同然の俺にそんな重い話をペラペラ喋ってくれるんだろうか。…ああ、風見くんからしたら俺は初対面じゃないんだろうけど。
多分、何か言って欲しいんだ。心が救われるような名言みたいなのを、俺に期待しているんだろう。
「……飯、食うか」
「…はい」
だが、そんな名言がすぐに思いつくはずもなく、ただ自分の腹に正直になるしかなかった。
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