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31-高谷広side
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「お先に失礼します」
まだ残る先生方に挨拶をすれば、嫌味な視線が向くのはいつものこと。
「もうお帰りですか。さすが風流な部活の顧問様は、余裕があるな」
「はは……いえ、そんな」
明らかな皮肉。こんなことを言ってくる人は、同じ化学教師の斉藤先生くらいだが、だとしても毎日のこれは結構堪える。
俺だって部活が楽なぶん、結構な量の雑務を任されているし、担任も持ってるし、先輩の先生方から面倒ごとは殆ど押し付けられるしで、忙しくないわけがない。むしろヘトヘトで、肩はガチガチに凝っているくらいだ。
それでも時間があるように見えるなら、こう言ってはなんだが、自分の技量だと思う。昔から要領が良いと褒められてきたから、これは驕りではない……と信じたい。
しかし、そんな生意気を言えるわけもなく。しかも今日は心が家で夕飯を作って待っている。
とにかく早く帰りたかった俺は、いつも通りの愛想笑いを浮かべて頭を下げた。
「すみません。お疲れ様でした」
たかが仕事上の関係。数年もすればどちらかが転勤して、接点はなくなるんだから割り切りも大切。
そんなことを考えながら駐車場に向かい、心に今から帰ると連絡しようとスマホの画面を開くと、誰かからのメッセージが一件受信されていた。
「まじか……」
この後に心に送ったメッセージの内容は、「もう少し遅くなる」だった。
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