アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
期待してた言葉
-
目の前には少し小高い丘があった。
エリックに手を引かれながら
ちょっと急な斜面を登りきると
「シュン、見て」
遠くに見える明るいパリの街、かの有名な
エッフェル塔は、ここからでもわかった。
その上空には日本とは違う星空が広がる。
パリの明かりが押さえられていることも
あるのか、はっきり見える星達。
そして、真っ白な月。秋ならではの澄んだ月だ。
「すげー…」
「ここ、俺の特等席なんだ。」
「綺麗…すごく綺麗…」
言葉に表せなくて、語彙力がなくなる
「気に入った?」
「うん」
「よかった。」そう言って、
フワリと俺に自分が着ていたカーディガンを
着せるエリック。
サイズが大きいのが腹立つけれど。
「フランスの夜は冷えるからね」
思えばもうすぐフランスに来て1ヶ月たつ。
なのに知らないことだらけだ。
こんなに夜が綺麗なこと、意外と寒いこと。
今日ね、とポツリと空を見ながらエリックが呟く
「今日、シュン元気なかったから。」
「今日…?」
確かに、昼間に言われたことをずっと
気にしていたかもしれない。
それが顔に出ていたのか
「俺、表情に出てたか?」
「うん、ちょっとね」
「悪い…」
すぐ顔に出るのは俺の悪い癖で
あの日だってそれが原因で……
「シュン」
俯く俺の頬をガシッと掴み上を向かされる
「何か悩みがあるなら言ってよ、
それとも具合悪かった?」
「ひや、ひゃなへよ(いや、離せよ)」
「シュン…俺を、頼ってよ」
そう言うと、ギュッと俺を強く抱き締めるエリック
泣きそうな声に聞こえたのは、俺の空耳だろうか。
「なんで?」
トンッとエリックから離れる
エリックの匂いが残る。心臓が早い、
「え?」
「なんで…そこまで心配すんの?」
わからない。赤の他人の俺のことをどうして、
そこまで気にするのか
真っ直ぐ見上げるとアクアマリンを
見つめられる。
空の星より、綺麗だと思った
「シュンが、大切なんだ。すごく、大切。
シュンが悲しいなら、俺も悲しくなるし、
シュンが嬉しいなら俺も嬉しい。」
エリックは少し困ったように微笑み、
首を傾げながら言った
「…あっそ。」
どうしてだ。
どんな言葉でもエリックに言われると
心が、暖かい。
「なぁ、俺とお前ってどういう関係?」
昼間の疑問を直接エリックにぶつける
エリックは、微笑みながら
「シュンは、俺にとって大切な人だよ。
友人とか、親友なんかじゃない。
大切なパートナーだ。」
「そっか…」
エリックにそう言われると、
ストンと俺の中の何かが落ちた。
パートナー、そう…だよな
何故か少しチクリと痛んだのは、
風が冷たいからだろうか
それとも、俺が何か別の言葉を
期待していたからなのか。
もう一度遠くにあるパリの街を見る
相変わらず綺麗で、遠い
…どっちだっていい
俺は今、そんなことを考えている場合じゃない。
明後日はいよいよコンクール
夢への通過点だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 232