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兄弟
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「俺の兄さんだ。」
俺がそう言うと、ピタッと固まるシュン。
アーサー・リチャード・リホーウェンは
俺の7つ上の兄だった。
シュンに、どうしてショコラティエを
目指そうとしたのかを突然聞いたの理由は、
昨日の夜にある。汗をかいていたシュンを
着替えさせようとシャツを脱がしたとき
(これは、シュンには言ってないけど…)
見覚えのあるブレスレットが目に留まったから。
その瞬間、俺の中で2つの話が繋がった。
「兄さんからは、日本に留学に行ったときに
素晴らしい男の子に出会ったと言っていたんだ。
俺と年が近くて、絶対に将来、
こっちに来るはずだって聞いてた」
「シュン、覚えてる?」
「俺がシュンにはじめて会ったとき
『シュンのことは知ってるよ』って言ったのを。」
瞳には動揺の色がありながらも
小さくコクンと頷くシュン。
「…日本から来る留学生って聞いて思ったんだ。
もしかしたら兄さんが言ってた子かも
しれないって。兄さんはその日本の男の子の
ことをたくさん俺に話したてたからね。」
それだけでは確信がなかったから、
シュンには兄さんのことは何も聞かなかった。
でも、そのブレスレットを見て、
確信がついたから、シュンに聞いたんだ。
「どう思った?」
俺が聞くと、シュンは怪訝な顔で俺を見てくる。
「何が…?」
「俺が兄さんの弟だって知って。
でもシュンはもう俺のことをただ一人の
人間としては見れないよ」
「…どういうことだよ」
一層顔が怖くなっていくシュンに、フッと自嘲した。
本当は、こんなことシュンに言いたくなかった
「俺は紛れもない、あの天才
パティシエアーサー・リホーウェンの弟で、
誰も俺を1人のパティシエとして見てくれない」
今までそうだったように、必ずどこに言っても
「お兄さんは素晴らしいね」
「あんなお兄さんがいてうらやましい」
そんな類いのことを言われる。
天才パティシエの『弟』
うんざりだった。
本当に親しい人以外、
学校では絶対に言わないようにした。
「シュンには…知られたくなかった。
俺を、見てほしかった。」
ガタッと立ち上がり、ドアまで歩く
1人で勝手に自分の感情をぶつけて、
病み上がりのシュンには本当に申し訳ないと
思ったけれど、少し、1人で整理したかった。
リー。アーサーがシュンに何をもたらしたのか、
シュンにとってアーサーは……どんな存在なのか
「ちょっ…待てよ!エリック!
お前は…リーが、嫌いなのか?」
シュンの声には色んな感情が混ざっていた。
いつも冷静なシュンに、だ。
でも、俺はシュンの問には答えなかった。
「…また、月曜日に。
早く風邪が治るといいね、シュン」
パタンッと静かに閉まるドア
「ごめんね…。」
誰もいない廊下に、俺の声だけが残る。
シュンの前で、俺は上手く笑えたかな
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