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赤い革表紙
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顔が火照って冷めないのは、図書室が
廊下と違い暖かいから。別にエリックに
触れられたからじゃない。
「バカじゃねーの…」
エリックは、冗談のつもりなのかもしれない。
単なる挨拶の延長だと思ってるのかもしれない。
でも俺は、エリックに触れる度に変に意識してる。
自分が自分じゃないような気持ちになる。
エリックにキスされた指先は、
熱を持っている感じがした
「恋する乙女。って感じかな?」
「いや…そんなんじゃ……は?」
突然かけられた声にバッと隣を見ると、
そこにはニコニコと笑顔を貼り付けたゼンがいた。
こいつ、いつの間に隣に座ったんだ?
「ニーハオ、シュンくん。何かお悩みなの?
お兄さんが聞いてあげようか?」
「はぁ?別に悩んでない。
それより、なんでここにお前がいるんだよ」
俺がそう言うと、ゼンは溜め息をつきながら
大袈裟に両手を上げた
「シュンくーん、すぐに答えを聞くのは
ナンセンス。ほら、想像力を掻き立てて?」
「うざ。」
ゼンはそれでもめげずに椅子を俺に近づけてくる。本当になんなんだこいつは。
「シュンくん、聞いたよパティシエ学科の
学科テスト1位だったんだって?」
「なんで知ってるんだ」
「お兄さん、お友達多いからさぁー」
得意気な顔でイスを片方浮き上がらせ、
遊び始めるゼン。
「…本当にお前何しに来たんだよ」
「んー?シュンくんに会いたくて…」
スルリと伸びてくる手が頬に触れそうになる、
その手前でゼンの手を払った
「触んな」
「えー。つれないなぁ。
エリックはいいのに、俺はダメなの?」
「はぁ⁉」
何言ってるんだこいつ。
いや、でも確かに
普通誰かに触られるのは嫌いだけど、
エリックは別によかった
どうして?
…ニコリと微笑む口許と目元の涙ぼくろが妙に妖しい。
こいつも黙っていればかなりの美形なことを
思い出した。
「まぁ、いいや。本当は坊っちゃんから伝言を
伝えに来たんだけどね」
坊っちゃん…ということはルイだ。
ゼンのファン家は元々ルイの家、
エティエンヌ家に使える優秀なバトラーだからだ。
「坊っちゃんが今週末土日は遠出するから
温かい服装を用意しといて、だってさ。」
「遠出?どこに?」
俺がそう聞いても、ゼンは椅子から
立ち上がりながらニコリと微笑み「さぁ…?」と
答えるだけだった。
「楽しみにしてなよお姫様」
そう捨て台詞を残して図書室を後にしたゼン。
…今週の土日?なにがあるんだ?
携帯でカレンダーを確認すると今週末は何もない。
ただクリスマス一週間前なだけ。
「クリスマス、一週間…」
あぁ、だから。色んな人の表情が少し明るくて、
街中が浮かれる日。生徒のほとんどが
クリスマス休暇を利用して実家に帰る。
俺は、さすがに一週間での日本とフランスの
往復は厳しいから学校に残るつもりだった。
…エリックは、誰と過ごすんだろう。
家に帰るとは思うけど。聞いてはないけど
エリックは、本当は恋人、とかイギリスに
いるのかもしれない。あいつをほっとく女なんて
いない気がする
そう考えて、またモヤッとする。
俺はそんな考えを吹っ飛ばすように
目の前のレシピ本を開いた。
赤い、革表紙の、端の方にA.L.Rと
書かれた、たくさんの書き込みがあるレシピ本。
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