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第一章「忘れるくらいに君を愛すと誓います」
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二年一組。大きなイベントである入学式も終わり、一年だった自分は二年生へと変わる。
進級に必要なテストは問題なく学年主席でクリアした和泉にとっては、赤点で危ういなどということはありえない話なのだが。
一番後ろの席を運よく手に入れたその場所は、窓辺で風と通りもよく、二年生への進級としてので出しは順調すぎるといっても良いだろう。…一つを除いては。
その嬉々とした日々から、約一ヶ月たった今現在。
最初こそ喜んでいた友との同じクラスは、今となってはあの喜びを返して欲しいくらいに憂鬱だった。清四郎と悠樹は相変わらず付き合っていても前と変わらず和泉に接するのだ。自分から二人の席は離れているものの、休み時間になれば、集会所のように自分の席へとよってくるのだ。
付き合ってしまえば二人の世界になるとは思って居たのだが、二人は何を思ってか自分の前で恋人ごっこをはじめる。実際に恋人なのだから、恋人ごっこではないが。
目の前でそのさまを晒されている和泉にとって、鬱陶しいという言葉以外でてこないのは仕方のないことだろう。知っていてそうしているのではないだろうかと、何回思ったことか。
休み時間ごとにこうストレスを与えられては、そのうち何かが爆発して、体にも精神的にもよくないだろう。
そんなかんだで昼休み現在。
二人から少しでも離れようと席を立つ…が、その瞬間にどこに行くの?付いて行くよといわれてしまえば、返答はもう一つしかない。そうして何処にもいけず、席に座ったのが十分前のこと。
「ねぇー和泉。この前の休日、図書館でいい本あった?」
人の心も知らないでと卑屈にも悠樹を睨んでしまいそうなるのを抑えて、普段と変わりなく心を落ち着かせて、平常を保つ。そもそもあの日はストーカーに絡まれて図書館へは行ってはいなかった。ストーカーのせいではないのは分かってはいるが、自分が落ち込んでいた事実を認めたくはなく、適当な言葉を述べる。
「まあね。いい本はあったよ、借りてはいないけど」
「へー…和泉が図書館に行って借りないなんて珍しいな」
話に乗るようにして、清四郎も混ざってゆく。一番聞きたくない声が、自分を見ては居ないその目がさらに和泉を不快なものにして、話しかけないで欲しいとさえ思うのだ。
黒いもやのかかったこの状況で、自分をこんな風にした二人が嫌いになりそうで怖かった。
二人が嫌いなわけではないのだ、ただどうしてか仲良くする気にはなれないだけ。
肩肘を突いて、二人の会話をよそに興味がないかのように窓辺のほうへと視線を向ける。
そんな行動も、普段から無愛想ないつもの和泉として見られているのだろう。
そうしてまた二人の世界になるのだ。場違いなのは自分であるかのように、感情ごと端に追いやられていく。追われた心が、逃げ出したい衝動に駆られて、ため息一つこぼすのだ。
和泉自身が、恋人同士二人で居れば?と一言言えば終わりのこの関係で、清四郎に嫌われたくないという思いが邪魔をする。
三年も好きだった人を昨日今日で嫌いになれなくとも、友達になれぐらいはできるはずだ。諦め切れていない未練たらたらな恋を終わらせるには、どうすれば良いのか。
弁当の蓋を開けてみたものの、口に含み一口で、蓋を閉じた。胸がむかむかと汚い言葉にはなるが胸糞悪い。こんなときに限って、あのストーカーは現れない。
普段なら絡みに来ていてもいいころなのにと、都合よくそんなことが頭をよぎる。
ストーカーと呼んでいるが、佐藤正宗(サトウマサムネ)彼は三年生の先輩であり、この学園の生徒会副会長でもあるのだ。生徒会というものはよくは分からないが、聞いた話では憧れの立場らしい。自ら進んで面倒である仕事をしたいとは思わない和泉にとってはある意味すごい人たちに思える。
毎年各学年から二人、容姿端麗で成績優秀な人材が選ばれて生徒の代表として働く。
昨年、そして今年。生徒会への勧誘を受けていた和泉とっては記憶に新しい。そもそもその勧誘し続けて居る人物が、ストーカーこと佐藤先輩なのだ。
いつの間にか生徒会は諦め、もはやただのストーカーになっていることが気になるのだが。
「やあ、和泉君。君はいつ見ても美しいね」
そうそう、あのストーカーはいつもこんな古臭いくどき文句で言い寄ってくるのだ。
「…って、先輩。いきなり現れないでください。いつも突然ですね、貴方って人は」
付け加えて軽く嫌味を言っておくことを忘れない。彼にはこのくらいが丁度いいのだ。毎回飽きずに背後に回っては、脅かすようにして自分の元へとやってくる。気配を感じないあたり、この人は忍者かなにかただろうかと疑いたくもなる。そもそもストーカーは天性による才能なのだろうか。
佐藤先輩は、相変わらずな優しげな笑みを深くして、和泉の肩を軽くたたいた。
「まあまあ、君に用事があってね。今から少し付き合ってくれないだろうか」
まるで自分のことが分かっているかのように、佐藤先輩はこの場所から連れ出してくれようとしている。ただいつものストーカー行為だとしても、それですら和泉としては好都合でしかない言葉に首を縦に振ると席を立つ。
何か言いたげにこちらを見る清四郎と悠樹から少しでも早く逃げたかった。「いつものことでょ、少し出てくる」そういい残しその場を離れた。
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