アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3
-
「和泉。おはようー朝だよ。…起きてる?」
同室者である悠樹が、低血圧で寝起きの悪い和泉を起こす。これは一年生の頃から変わらない。
何時までも友人に頼ってばかりというのも自分にとっても悠樹にとってもよくない事だと分かってはいるが、どうしても朝は辛いし眠くて仕方ないのだ。
「んー…起きてるよ、おはよう」
ベットから重い体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
その様子を見てか安心したように悠樹は支度の用意を始めて、自分もまた同じように身支度始める。
いつもと変わりない朝で、ここ最近のことが嘘みたいだった。制服に着替えて、部屋の外に出るまでは。
「おはよう、和泉。相変わらず朝は弱いな」
普段は朝錬もあり、滅多なことが無い限り部屋には訪れない清四郎。それが悠樹と付き合ってからというもの、毎日のように朝錬が終わってからわざわざ悠樹を迎えにこの部屋へと訪れるのだ。恋人の顔を少しでも多く見たいと思うのは当然のことであって、何もおかしなことは無い。それでも和泉にとっては不快の一つであることに違い無いのだ。
そんな感情も朝から表に出してしまっては朝から暗い空気になるだけで、認めるほか無いのも分かっている。
「まあね。それより毎日お迎えなんて、仲がいいことで」
和泉にとっては皮肉を込めたつもりのことでも、二人にとっては嬉しい言葉へと代わる。二人して顔をあわせて、恥ずかしそうにしているのがその証拠だ。付き合いたてというのは、甘い空気を醸し出していて見るものを不快にさせるものだったのかと、内心毒づく。
「それより和泉、早くしないと学校遅れるよ?」
悠樹が気遣いを持って言ってくれる言葉。だがその言葉の意味を知っている和泉には重い言葉でもある。
この付き合いたてのカップルは何を思ってか、毎日自分を入れて登校するのだ。せっかくわざわざ迎えに清四郎が来たのだから二人で登校すればいいものを、なぜかは知らないが和泉が支度を終えるのを待っている。
付き合ったからといって、和泉一人にするのは可哀想とでも言われているようで、まるで同情されているようですら感じてしまう。二人はそうは思ってはいないだろうが、捻くれてしまった心は純粋にその友情を受け取れない。付き合っている二人をまだ認めたわけでもないのだから。
「今日は遅くなりそうだから先に行っててよ」
精一杯の言葉を二人に告げる。
実際、まだ顔も洗ってはいないしご飯も食べてはいない。言い訳としては十分だった。
そんな和泉を二人は顔を合わせて不思議そうにしたのち、清四郎が口を開く。
「和泉が用意遅いのは前からのことだろ?」
「それに、前それでもう一回寝たのは誰だっけ?」
用意が遅く二人を待たせてしまっているのは事実で二度寝したことに関しても認めるが、そこまで自分思いな二人に呆れすら感じてしまう。かと言っていちゃつく姿を見たくない和泉にはため息を零すしかなく、そして今から急いで用意をしないといけない。何を言っても通じない二人に自分ひとりの空回りで終わっていってしまう。
「じゃあ、急いで用意をするよ」
急ぐ気などは全くと言ってないが、それ以上の言葉を言わせないようにそれで納得させる。
洗面所に向かい歯ブラシを手に取った瞬間、「ピンポーン」と呼び鈴の音が鳴った。
朝からこの部屋に来るのは一人しかいないだろう。冷静に歯磨きを続けて、悠樹がドアを開く音がする。迎え入れたのか、背後から聞こえる足音とともに洗面台の鏡を見た。
「おはよう、和泉君。今日はまた一つ珍しい一面を見れたよ」
佐藤先輩は振り向く和泉に笑顔でそう言い放つ。
歯磨きしている様子は毎日していることで、何も珍しくは無かったが、見られることは早々無いあたりこの人にとっては珍しいことなのだろう。
彼の言葉に睨み付ける返答を返して、また洗面台へと向かいうがいを終わらせ顔を洗う。付いた水滴をタオルで拭きながらもう一度佐藤先輩を見直せば、こちらをじっと見続ける彼にため息を零した。
「朝からストーカーですか?忙しくて仕方の無い人ですね」
「ひどい言われようだね。まあ、それも一理ある…が、君を迎えに来たというのが本音なのだが」
昨日の出来事はよく覚えている。
佐藤先輩の提案に乗った付き合うの言葉。それは恋人同士になろうという意味であって、それが唯一の逃げ道だった。優しいこの人のことだから、朝も付き合ってくれる気なのだろう。
この隠された事実の付き合っているという部分だけは二人に言っておかないと意味が無い。深く考えれば、もう清四郎を諦めるという決断を出していることでもあるのだろうと、逃げ道にしろ認めなければいけない部分もある。どちらにしても、悠樹から清四郎を奪うという行為をしようとなんて思ってはいない。
「それならお言葉に甘えて、一緒に登校しましょう」
「和泉、佐藤先輩と一緒に行くの?」
二人の会話を何時から聞いていたのかは知らないが、悠樹が問いかける。
同じ部屋である限り聞こえても当然だ。佐藤先輩のとのやり取りが気に入らなかったのが、悠樹は少し機嫌の悪そうな様子で、その意味がまったく理解できなかった。
「せっかく待っててくれたことは申し訳ないけど、迎えに来てくれたみたいだから」
「どうして?いつもなら、それでも俺たちと一緒に行くのに」
「確かに。和泉は佐藤先輩と何時からそこまで仲良くなったんだ?」
悠樹に便乗してか、清四郎までもが止めに入る。普段ストーカーの如く自分に話しかけていた佐藤先輩を怪しく思うのは当然だが、困っているなどは一言も言ったことが無かった。鬱陶しいと自分の知らないうちに顔に出ていたのかもしれない。
「うーん、私はよほど信用の無い人物らしい。和泉君、本当のところを言ってあげたらどうかな」
何もかもが佐藤先輩に作られたシナリオのようで気に障るが、言わないとせっかく作ってくれた言える口実のタイミングを失ってしまうだろう。相変わらず崩すことの無い表情の佐藤先輩を軽くにらんで、その言葉の真意を知りたがる二人に、観念したように本日三度目のため息を吐いた。
「付き合ってるんだよ、佐藤先輩と。それで納得したでしょ」
そういえば二人の間をすり抜けるようにしてまた用意を再開する。
詳しくを聞かない二人、そしてどこか複雑そうな顔をする様子に、和泉はなんともいえない気持ちになる。ここで問いただすことは出来ないだろう、二人がそうだったのだから。それでも「よかったね」と言わない二人は無言のままで、やはり和泉には理解できなかった。
二人をよそに寮から飛び出すように佐藤先輩の手を引き、校舎へと向かう。
重い空気に耐えられなくなった結果なのだから仕方が無い。二人は晴れて恋人同士になれて、その和泉もまた恋人が出来たのだ。それならば、自分と同じように祝福してくれてもいいのだが、何が不満なのだろう。
「和泉君からリードを取って、手をつないで歩くなんて。君もなかなか大段だね」
「すみません、少し驚いて」
「二人の態度にかい?」
勢いで来てしまったために、繋いだままにしていた手を離す。
見透かされていたかのような佐藤先輩の言葉に、軽くうなずく。彼には自分のことは何でもお見通しのような気がして、深い理由を言う必要も無い。生徒から慕われる副会長の座も納得がいく気がした。
「君と同じだよ。二人は驚いているんだ、まさか和泉がって…そうだろう?教室に行けば元通りになっているよ」
不安をよそに、何でも知っているかのように微笑む。
その言葉は安堵感を与えていく。今回のことで二人から嫌われることは無いだろうが、あの様子で一緒には過ごしたくない。居辛い関係ほど嫌なものは無い。言葉を発しない和泉に、佐藤先輩は安心させるかのように頭に触れた。そして髪の流れに沿って優しく撫でる。
人からあまり触れられることが好きではない和泉は、その手を取り払おうとするが、優しいその仕草に負けたように好き勝手にさせる。今このときだけは許してやろうと、ストーカー男に心を許す。
このときだけはこの人といる間は、平常心でいられることをまだ和泉は知らない。
「早く行きますよ、遅刻する」
「それは不味いな、迎えに行った意味がなくなってしまうよ」
そして遠慮ない言葉で感謝の言葉も言わないが、感謝の言葉は心の中で言うのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 8