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「おや、和泉君。どうしたんだい?こんな所で…いや、そうか。ついに君は生徒会に…」
「違いますね、残念ながら」
佐藤先輩が全てを言い終える前に、自分の言葉を持ってそれを制する。
入学して暫くたった頃から断り続けている生徒会への勧誘を、今になって入りたいなど思うはずもなかった。しつこく勧誘し続けた佐藤先輩なら言わなくても分かることだろう。どうして自分が生徒会室の扉の前で立っていた事が分かったのかという疑問を置いて、そんなことを考えた。
「では、君が私に会いに来てくれた…そういう事で良いのかな?」
「……。」
和泉としては、自分から佐藤先輩に会いに行ったという事実を認めたくはなかったのだが、目的を持って彼に会いに行ったことに違いはない。返ってきた言葉は正解だったが、気に障る言い方に素直に返答する気にはなれず、無言で返事をする。
「沈黙は肯定と捉えよう。今すぐにでも君が来たその訳を知りたいところなのだが、少し立て込んでいてね。中の応接室で待っていてくれるだろうか」
生徒会室への扉を開け、そのドアを押さえて和泉が入りやすいようにそして閉まらないように支える佐藤先輩を通り過ぎ、招かれた生徒会室へと入っていく。勧誘によって何度か来たことのあるこの場所は、室内を案内してもらわなくても分かっている。それを知っている佐藤先輩も歩き出す和泉に何も言わない。
しかし応接へと入った瞬間、あることに気づく。二年生に上がってからは此処へは来ては居なかったためか、新しくなっている応接室のソファーに目を配った。その様子に気付いたのか、後から来た佐藤先輩は口を開く。
「それかい?前のは古いようだったから、理事長が気を利かせてくれてね。お客さんを招くには見た目が悪いと」
「座り心地も少し悪かったし、良いんじゃないですか」
「ゆっくりと寛ぐと良いよ、そのソファーも本望だろう。さて、私は生徒会の仕事をしなければ…ああ、そうだ。和泉君が暇を持て余さないように手の空いている補佐君を連れて来よう」
「僕は一人でも待っていられますけど」
「まあ、そう言わずに。私はもう暫く掛かるだろうから少し待っていてくれ」
突っ込みたいところは沢山あったが、本当に忙しいのだろう。人の意見を無視して立ち去っていく佐藤先輩に、人の意見を聞かないのは自分もやはり同じではないかと悪態をつく。新しくなったソファーに腰掛け、昼休みの出来事を思い浮かべる。
昼休みが終わった後、教室に帰った和泉。清四郎と悠樹になんて声を掛けたら良いか分からず、言葉を交わすことなく自身の席に着いたのだ。喧嘩をした訳でもないのだから普通に声を掛ければ良かったのだろうが、それが出来なかった。立ち去る間際に見た二人の様子はおかしく、そして和泉の恋人である佐藤先輩を歓迎していないのは誰が見ても分かることだった。本当に付き合っているわけではない。嘘をついている自分の状況を棚に上げて、なぜこうも空気が重いのかと気まずいその場へと行く気になれなかった。
それでも五時限が終わった休憩時間では、そのことは何もなかったかのようにいつも通りの二人に戻っていたのだ。相変わらず集会所のように和泉の席へと集まる清四郎と悠樹。会話も特に変わった様子もなく、違うといえば佐藤先輩についてのことは一切二人の口からは話題としては上がらなかった。触れられたくない内容だけに和泉としてもそれは有難かったかったが、今の状況はいつも通りと言うには違っているように思えた。そのことでどうして良いか分からず、このまま学校から寮に帰って悠樹に会うのも気まずさを感じ「図書館へ行ってくる」とそれを口実にして生徒会室へと来たのだ。
何でもかんでも彼に頼ってしまうのは良くない事だと分かってはいるが、気まずい空気のままルームメイトと過ごすことを思えば、彼の意見を仰いで今自分が感じている疑問をはっきりさせる方が良いだろう。ここ数日間で佐藤正宗という言う人物は、ある意味で和泉にとってなくてはならないような存在になっていた。
「あの…えっと、お茶を持ってきました」
佐藤先輩が自分の持ち場へと帰ってから暫くして、お盆にお茶を二人分乗せて少し小柄な少年が応接室に入ってきた。
さっき彼が連れてくるといっていた言ってた生徒会補佐で間違いないだろう。
この学園は上下関係はしっかりしており、学年をネクタイの色で分ける。目の前に居る彼は青色で一年生。そして、二年は赤色三年は緑色とチェック柄のネクタイはわざわざ本人に聞かなくても分かるので和泉としても便利だと思っている。
「…ありがとう。佐藤先輩言われて?」
「は、はい…。それとお話し相手をするようにも」
佐藤先輩は、和泉の意見を本当に無視して実行に移したらしい。何でも知っていると答えておきながら、和泉が言ったことを無視したあたり、彼が何かの意味を含めてわざとそうしたことは明白だ。
どこか緊張した様子でソファーに座る様子のない補佐に、此処で彼に「話し相手は要らない」というのは悪い気がして出そうな言葉を喉元でとめる。
「佐藤先輩は強引だから困るんじゃない?少しお話に付き合ってよ、補佐君」
「えっと…副会長はまぁ、いつものことですから。お茶失礼しますね、ちなみに佐藤先輩お勧めの紅茶です。それと、僕は有沢陸(アリサワリク)といいます、立花先輩」
先ほどの佐藤先輩の強引な行動に対して、その場に居ないことをいい事に毒づく。仮に居たとしても、同じようにするのだが。
有沢は紅茶を差し出して自分の元へと置き、甘党ではない和泉は何も付け加えずそのままカップを持ち上げて頂く。佐藤先輩のお勧めあたりが気に食わないが、確かにおいしい紅茶に罪はない。彼が居ない間でも彼の話題に触れたくはなく、話題をそこで終わらせる。
自己紹介を受けて和泉が毒づいた今はいないその人に苦笑を漏らす有沢に、彼もまた巻き込まれた被害者なのだろう。
「僕の名前は知ってるみたいだね、それなら紹介はいらないか。よろしく、有沢君」
「立花先輩は有名ですから。」
「…そう、目立ったことはしていないのにね」
自分の容姿と成績のせいもあってか目立っていることは知っていた。
日頃の行いで見れば大人し過ぎるくらいに入るのだが、目立ってしまうのはこの学園が特殊だからだろう。閉鎖された空間で、外に出ることも出来ず女性の居ないここは、おのずと男性にと目を向けていく。そのせいあってか目立った事をしていなくても、容姿のいい和泉は目立ってしまうのだ。ファンクラブや容姿についてのランキング、滅多に外にいけない生徒たちはアイドルでも見るように扱う。同姓に恋をしているという面で自分もまた同類なのだが、ランキング云々には興味もなく知ろうとは思えない。
「先輩は成績も良くて、綺麗で。とてもあこがれます」
生徒会へとは入れているのだから、有沢は認められているのだ。生徒会は、人望こそ大事だが認められなくては入られない。容姿も成績も必要とされる。外国の血が入っているのか、金髪に碧眼そして大きな目はお人形のようだ。自分の何にあこがれているのかは知らないが、十分に綺麗で誰もが認めるだろう。
「有沢君には負けると思うけど。可愛いし、それに成績が悪い人が生徒会には入れないはずでしょ」
「そんな…っ!立花先輩は凄いです、お話できたことが嬉しくて。それにそういって貰えてたら…僕」
「…本当、可愛いよね」
素直な性格なのか、嬉しそうな顔をしたかと思えば頬を赤くしてそれを隠すようにして下に俯く。
こういった可愛い子は苦手で仕方がない。守ってあげたくなるような、そして素直で可愛らしい性格。自分もそうであったなら素直な想いを相手に伝えられただろうか…まったく持って可愛げのない素直のかけらもない和泉にとっては無縁に近いともいえる。
正反対の性格である有沢は、友人の悠樹と重なってその気持ちが嫉妬だと気付く。
お世辞を言われたからお世辞を同じように返した。今現在では有沢を好きになれそうにもない。捻くれてしまったこの気持ちのせいもあるが、この話の続きを交わしていくことに少し面倒を感じる。有沢に言った可愛いに含まれた自分の言葉は、嫌味でしかなのだ。憧れを抱いているといったその言葉は、きっと嘘はないだろう。そして、そんな気持ちを抱いてもらえるほど和泉は綺麗ではないのだから、有沢と反対に彼が言った言葉は和泉にとっては少しも嬉しくなかった。
そんな自分を他所に楽しそうにする有沢には悪いが、佐藤先輩は何時来るのだろうかと時計を見たが、終わりの時間を聞いていなかったことを思い出す。来てほしいと思いながらも、続けたくない会話をさせたその本人に苛立ちすら感じる。有沢が悪いわけではない。苦手なだけで嫌いでもない、その苛立ちの原因も自分が悪いことはちゃんと分かっているつもりだ。
「そう言えば、副会長はよく立花先輩のことを褒めていますよ」
「…それってどういうこと?」
常日頃からお喋りだと思ってはいたが、本当にそうだったのか。
自分の居ない間で話題に出すほどとは…油断も隙もない。他所でなにを話そうがそれは彼の勝手だから何も言わないが、その話題の中心に自分が居るのとでは意味が違う。その内容を聞くようなことを聞いてしまったが、知りたくもない。とっさに聞いてしまったことに後悔した。
「そうですね…今日は確か、今朝は少し寝癖のついた髪が跳ねていて可愛かったとか、二時限の休み時間はうとうとしていて、今にも寝そうな姿が可愛かったとか…それに移動教室で廊下を通った時に立花先輩の匂いがしたとか…ほかには」
「それ以上はいいよ、分かった」
悩みに関しての情報は言ってはいないようだが、彼はやはりストーカーであると仮定を肯定に変える。何時の間に教室へと訪れたのかは知らないが、自分が気付かない間にも見続けているらしい。気配を感じない佐藤先輩にしか出来ないことだろう。有沢からそれ以上を聞いてしまえば、彼を殴ってしまいそうなのでストップを掛ける。
「こらこら、有沢君。彼の目の前でそれを話すなんて、照れるではないか」
「副会長、すみません」
突然現れた佐藤先輩に有沢が答える。
何時から聞いていたのかは知らないが、彼のことだからあえて突っ込みはしない。それよりも今出ている話題について問いただすのが先だ。聞かれて不味いとも思っていないのだろう。目が合った瞬間、相変わらずな笑みを送る彼を見てその目を睨み付ける。
「さて、今日の生徒会は終わりにしよう。それと会長が呼んでいたよ、行っておいで」
「分かりました。立花先輩、今日はありがとうございました!それでは、失礼します」
「こちらこそありがとう」
応接室の扉の前で礼儀正しくお辞儀をして立ち去る有沢に、和泉もまたお礼を返す。
佐藤先輩と二人になった応接室で「どういうことなのかと」無言の圧力を掛ける。呆れもあってか、話す気になれない自分とは裏腹に表情を一切崩さないどころか楽しそうにしている彼に、和泉の睨みは更に鋭さを増す。
「和泉君…顔が怖いよ、それではせっかくの美人さんが台無しだ」
「こんな顔にさせたのは貴方ですが」
「有沢君は君のことがどうやら気になるみたいだ。私の独り言を聞いていたのかもしれない」
「ふうん、ずいぶん大きな独り言で?プライバシーの侵害もいいところですよ」
「…実を言うと、友人である生徒会長君に見たことを報告していたところを聞かれてしまっていたらしい」
生徒会長との仲は知らないが、それに巻き込まれた本人としてはいい迷惑でしかない。
佐藤先輩の表情を見るに、本当に有沢が聞いていただけなのだろう。どちらにしても聞こえるような声で話していた事実は変わらない。生徒会長に話していたという事実を含めて。
「言ってしまったものは仕方がないですが、次からはプライバシーを守ってください。…彼にはあまり知られたくない」
「なるほど、有沢君はどうやら苦手みたいだね。…と、そろそろでないと鍵を閉められてしまう。後の話は私の部屋にでも行って話そう」
「さあ行こう、食器はそのままでいいよ」と急かされるようにして応接室から出ようとする佐藤先輩に、返答を返していない和泉。強引な流れに聞きたいことがまだ山ほどある和泉は、その場を離れて付いていく。人の意見を聞かないのはやはり佐藤先輩で、それでも二人のことにしろ有沢のことにしろ。自分を十分に理解しているのもまた、佐藤先輩なのだ。
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