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不思議な子だと思った。
出会ったばかりの俺にどうしてこう優しくしてくれるのかわからなかった。
世界は痛くて、怖くて、他人との距離が一番大切なのに。
この子はもう俺の内側に入っているような気さえした。
伸びてきた俺よりも大きな手が頬に触れ伝う涙を拭ってくれる。
「平気ですか?」
「うん、大丈夫。…ごめんね。なんだか弱っちゃってて。」
「…察します。少しずつ、藍川さんのこと教えてくださいね。サポートも仕事のうちなんで。」
「ふふ、…わかった。」
その言葉にやっと納得した。
そうだった、この子は仕事でここに来てるんだった。
それならこんなに優しくしてくれることも、妙に近いところにいるのも納得だ。
気を抜くとすぐに飲まれてしまいそう。
「そうだ、腹減ってませんか?」
「そうだね…朝から何も食べてないから少し。」
「それなら材料なら最低限だけあるんで作りますね。」
「え?」
「あぁ、…上司から上手いもんでも食わせてやれって言われててそれで。好きな食べ物とかあります?」
「そっか。…味噌汁が好き。味噌なら確か冷蔵庫にあるからお願いしたいな。」
「わかりました。」
そう言うと小波君がにっこり笑って部屋を出ていく。
…しまった、台所も荒れ放題なんだった。
ゴキブリとかいないといいけど…。
ううん、流石に害虫退治まで任せちゃ悪い。
ベッドから降りてリビングへと向かう。
廊下に山積みになった本やゴミに思わず笑ってしまう。
あぁ、何もかも捨ててくれたんだ。
「藍川さん、どうしました?」
「えっと…台所も大変なことになってると思って。」
「1通りは掃除したんで、大丈夫そうですよ。洗い物とかはほぼ無かったですし。」
「…それならよかった。折角だからここで見ててもいいかな。」
「え?あぁ、大丈夫ですよ。…ええと味噌、…あ。これですね。」
「うん。前に味噌汁飲みたくなって自分で作ったんだ。…みそ風味のお湯になっちゃったけど。」
台所のカウンター席に座って小波君を見上げる。
台所に立つ姿も絵になるなぁ。
なんて思ってると、小波くんが表情を引きつらせながら味噌の入れ物を俺に差し出す。
「…?」
「藍川さん、そのみそ風味のお湯…いつ作りました?」
「えっと…確か、1年…2年、…」
「そりゃ消費期限切れてますよね…!!流石に食べ物は捨ててください、虫湧きますよ…!」
「あはは…冷蔵庫に入れてたら大丈夫じゃ…」
「大丈夫じゃないです…!ちょっと中全部見ますよ、…うわ、この刻みネギカラカラになってますけど…」
「それも確か味噌汁の…」
「二年前のネギなんですね…!」
小波くんが大激怒で次々と冷蔵庫の中身を出していく。
あぁ、そんなのもあったっけ。
懐かしい顔ぶれがカウンターの上に並ぶ。
「あ、これ美味しいよ。チーズなんだけどオヤツみたいなんだ。ひとつ食べようかな。」
「消費期限一年前ですけど。」
「あはは……」
今までこんな風に言ってくれる人もいなかったなぁ。
小波くんを見てつい笑ってしまう。
そんな俺を見て小波くんは「少しは反省してください」なんて言って怒るのだけど。
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