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チクタクと時計の針が響く中。
少し落ち着いた藍川さんがカーディガンの袖で顔を覆いながらポツリと呟いた。
「…批判や中傷が怖くて。ずっと、閉じこもってたんだ。」
細い指がカーディガンの先をひっかく。
まるで 悲しいよ 苦しいよって訴えるみたいに。
「小さな嘘の記事が世間に回って、まるで本当みたいになるんだ。それが怖くて。出会う人がみんな嘘つきに見えた。…本当は誰よりも弱いんだ、小さなことに過剰に反応する癖がある。」
「…それは藍川さんが悪いんじゃないですよ。」
「ううん。これは俺の一番の悪い癖だよ。だからね、…何も書けなくなった。今までのことが嘘みたいに。
小波くん。きみは、物語の書けない俺に価値があると思う?」
隙間から見えた目が俺を見つめた。
目は涙に濡れて赤く腫れている。
ずっと 辛い思いをしてきた。
傷ついて それさえも誰にも言えなくて抱え込んでボロボロになって。
きっとそうやって一人きりで耐えてきたんだ。
「あります。…藍川さんとこうやって話すようになったのは最近です。でも、…藍川さんと一緒にいたいって思えるくらい。貴方は素敵な人です。」
「…でも。俺はもう…本を書けないかもしれないんだよ?」
「本を書けなくたって藍川さんは藍川さんです…!!それじゃ、ダメですか…?」
上手く言葉にならない。
それでも俺は、貴方にただ笑って生きていてほしい。
世間なんて、マスコミなんて気にせずに。
「…それで、いいのかな。」
「本の事は忘れて。今だけ自分のために…生きてみませんか…?」
「君が傍にいてくれるなら、それも…ありかなぁ。」
やっと上がった顔がふわりと笑った。
ボロボロの心はきっとすぐには戻せないけれど。
ほんの少しだけでも、何かが変わったようなそんな気がした。
なんて
俺はまだ これっぽっちも藍川さんを知らなかったのに。
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