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「…それで、俺はあの偉い人の元で本を出させてもらう事になるんだ。そこからも色々あったんだけど…とりあえず、これで一区切りかな。」
いい加減話しすぎて喉が渇いてきた。
うーん、と大きく欠伸をして目の前を見ると彼は目を真っ赤にしてただ俺を見つめていた。
「…どうして君が泣くの。」
「抱きしめて、いいですか。」
「いいよ。」
そう言うと大きな体に包まれる。
俺は あの生活を不自由だと思ったことなんて一度もなかった。
あれが 普通だと思っていたから。
あそこを出て 世界を知って 経験をしてしまったせいでまた本が読みたいだなんて思ってしまった。
君に抱きしめられて
君が俺のために泣いてくれて
君が俺のことを思ってくれて
俺は 今までひとりが 当たり前だったのに。
「藍川さん、…キスはあの人にされましたか?」
「え?…ううん、されてない…けど、…ぅ…」
言い切る前に口を塞がれる。
何度も、触れるだけの小さなキスを繰り返す。
小波くんの涙が俺の頬へ移って流れていく。
「キスは…俺が、初めてですか…?」
「…うん。」
「よかった。痛いキスじゃなくて、よかった。」
「ありがとう。優しくて、温かいね。」
「…はい。」
どの本を読んでも
この気持ちがなんなのかは教えてくれなかった。
小波くんに触れられる度
言葉を交わす度
"幸せ"なんて思うのは
なんの気持ちなんだろう。
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