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ウトウトとしていると、肩を揺らされて目が覚めた。
目の前には見慣れたおじさんの顔。
「着いたぞ。」
「ありがとうございます。」
「中まで送る。何があるかわからないからな。」
「ふふ、助かります。」
心配性だなぁ、と思いながら偉い人は俺の前を歩いてドアを開けてくれる。
そのまま後ろをついていくと物騒に荒れたリビングに思わず間抜けな声が出た。
「うわぁ…」
「あのまま片付けてないからな。…でもいつもより綺麗じゃないか?」
「先生が来る直前に綺麗に掃除してたんです。あぁ…本をこんな風に扱ったらそりゃ怒られますよね。」
「…投げたのか?」
「怖くて。よりによってハードカバーの本投げるなんてどうにかしてました。」
「仕方ないだろ正当防衛だ。これは俺が直しとくからお前は寝とけ。」
「ありがとうございます。」
どこまでもお人好しで優しい人だ。
俺は言われる通りにソファへごろんと寝転ぶと机の上に投げ出された便箋を見つけた。
これは誰からの手紙だろう?
手に取ると中にはファンレターらしき内容とどこかで見た事のある文字。
「…一回読んだやつかな。」
「何がだ?」
「お手紙です。多分読んだやつをこのままここに置いてたんですね。綺麗な文字に綺麗な文です。」
「お前のファンは妙に文節が整ってるんだよな。お前の影響か?」
「いやぁ、まさか。たまたまですよ。」
また便箋を投げ出して横になると目を閉じた。
今日はどんな夢を見ようかな。
楽しい夢を見られるといいな。
「あ、そういえば。僕が眠っている間に誰か僕がいる部屋に来ましたか?」
「あ?なんでだ?」
「途中目覚めた時に誰かと話した気がするんです。あまりいい格好じゃなかったから少し恥ずかしくて。」
「…どんな話をした?」
「どんなって…目が良く見えなくてその人が誰かわからなかったので知り合いですか?って。そしたら知らない人だって言うからそうなんだね。って。そんな話です。他は忘れました。」
「見えなかったのか?」
「はい。ぼやけて、霞んでいて。」
内容はぼんやりしているけれど、その人の顔が良く見えなかったことは覚えている。
後は何を話したかな。
手を握った眠ってくれて。
…って事は、俺が寝てる間にどこかに行ってしまったってことだ。
「あぁもう…皆、一緒に寝てと言っても眠ってる間にどこかに行っちゃうんですよ。怖い夢を見るからと先に言ってるのに。」
「皆?」
「その、少し前まで眠る時よく傍にいてくれた人です。」
「へぇ、それは誰だ?」
「誰って……あれ、ええと…誰かな。忘れてしまったけどすごく優しい人です。もう傍にはいないから優しくないのかもしれませんけど。」
「そういう事だろうな。」
そんな話をしているうちに少しずつ眠くなってくる。
貴方だって俺の手を握ってくれたっていいですよ。
と言おうとしてやめた。
偉い人は忙しいんだ。
ピッタリと目を閉じて遠くで本が擦れる音を聞いていた。
明日は目が覚めたら美味しい冷凍食品を食べよう。
そしてテレビをみて眠ろう。
そうしよう それがいい。
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