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飢えているのは血じゃなくて2
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ハロウィン当日。年下の同居人との待ち合わせ大学校門前に佇む楠田は、狼男の仮装をしていた。…と言っても、茶色い猫耳のカチューシャとパーティーグッズの犬鼻と、ジーンズに茶色い尻尾の飾りをつけているくらいだ。そんな簡易狼男の前を見知った顔が通る。
「あれっ、佐々??」
声をかけられた佐々は、頭にボルトの飾りをつけたフランケンシュタインになっていた。楠田に気がつくと傍にやって来る。…何やら、佐々は慌てているらしかった。
「楠田!!…お前も来ていたのか。榎野に誘われて??」
「ああ、うん…。で、お前はどうして??」
「俺も、後輩に参加しないかって誘われて…。っていうか、ハルを知らないか??一緒に来たはずなのにいつの間にかはぐれていて…。」
楠田はえっと短く叫ぶ。
「白摩さん、大学に来ているのか??いや、見ていないや。佐々が誘いをかけたのか??」
佐々は頷きを繰り返しながら、忙しなく周囲を見渡している。
「…ああ。実は、ハロウィンパーティーのステージで歌ってみないかって誘われたんだよ。ハルはここ最近部屋にこもり気味で…彼なりに頑張ってはいるんだが。あんまり張り詰めていても、身体によくないしな。外に出る口実として、声をかけたんだが…。失態だ。そういやハルは、方向音痴気味だった…。」
「…ちなみに、白摩さんの仮装って??」
「ジャックランタンを持った魔女。ランタンは、徹夜で器用に針金とかで手作りしていた。あれでなかなか、一つのことに夢中になるとすんごいんだ、アイツ。」
楠田は笑い声をあげる。…佐々の幼馴染である白摩と、楠田が会ったのは今年の春先だ。よくは知らないが、断言できるのはしっかり物の佐々を振り回すユニークな人物である点くらいか。
「まあ、ステージの場所くらいは一目瞭然だし時間になったらふらりとやって来るんだろうが…。どうにも心配で、探しているんだ。」
「じゃあ、見つけたら佐々が探しているって言っておくよ。もし、お前が出会ったら『歌、楽しみにしています』って伝えといて。」
「…わかった。できたら、ハル捜索には榎野にも声をかけといて欲しい。まったく…。糸の切れた凧にはGPSをつける以外に対処法はないのかな…。」
呟きながら、佐々は大学の方に足を進めていく。相変わらずの二人だな、と苦笑いしていると聞き慣れた声に呼ばれる。
「…楠田さん。」
楠田は、同居人の声に反応して振り返り…言葉を失った。
紺色の慎み深いスーツ。羽織った外が黒、中が真紅のマント。黒髪は普段と違って、後ろに撫で付けられている。なまっ白い顔。化粧で痩けて見せている頬。カラーコンタクトを入れて赤くしたらしい双眸は若干きつくなっている。極めつけは、紅を引いた唇から覗く白い犬歯だ。
生来の甘いマスクに野性味を加えたような、ムスク香り立つ一人の吸血鬼紳士がそこに佇立していた。
「…榎、野??」
無意識に、楠田は上唇を戦慄かせていた。今なら、御伽噺で王子を前にした後に姫となる庶民女子の気持ちがよくわかる。
(格好いい、とか並の表現じゃ間に合わないだろ、コレ…。何て言えばいいの??雄々しい、かな…。)
「似合っていますか、狼さん。」
小首を傾げる姿さえ、後ろから謎の光に照らし出されているようだ。楠田は、おずおずと頷く。初々しい素振りの年上に、後輩はふっと吹き出す。
「…どうしたんですか、楠田さん。何だか大人しいですね。」
「そう、かな…。」
(反則だろ、このイケメンっぷり…。)
俯く楠田の耳元に、後輩がそっと低く囁く。
「…楠田さんは、やっぱり可愛い。狼さんなのに、食べちゃいたくなる。」
「…~っ」
楠田が赤面しかけた時だ。榎野の背後から、無数の声があがる。
「へぇ~。榎野センパイの友達って、男の人だけどなんか可愛いですね。」
パッと顔を上げると、榎野の片腕を両手で掴む派手な赤毛の女子がいた。アクセサリーを全身に身に付けているギャル系だ。榎野は若干引き気味に、彼女に声をかける。
「あ…朱野(アケノ)さん、ずっと言っているけど…。俺、恋人いるからそういう誤解を呼ぶような行動はやめてくれないかな。」
「ええ~??何でですかぁ??そこのセンパイは、榎野センパイの彼女じゃないでしょう~??」
楠田が目を白黒させていると、朱野が絡んでいる反対側の腕に紺色がかったショートカットの女性が縋ってくる。
「そうですよ~!!それに、朱野さんばっかりズルい~!!センパイ、あたしにもかまってく~ださい♪」
「青家(アオヤ)さん、悪いけど手ェ離して…。」
たじたじになっている榎野が、後ろから何か衝撃を受けたようで前につんのめる。すると、背後から背の高い女性が表れる。ポニーテールをしている。
「はいはい、みんなで榎野くんを取り合わない~!!榎野くんは私のものでぇ~す!!」
言うやいなや、ポニーテールの女性は相手の首に自分の両腕を絡める。
「…黄葉(オウハ)さん、あなたが言いますか…。」
榎野の顔色が悪いのは、化粧のセイだけではないらしい。
「お友達より、ほら!!榎野さん、ステージ始まっちゃうよ!!」
「あ、あの、俺は楠田さんと一緒に行くから…。」
「そんな釣れないこと言わないで!!見目麗しい女子と行こうよ~っ!!」
三人を筆頭とする、その他大勢の十名くらいの女子に流され、榎野は校舎の方に消えていく。
一人ぽつんと取り残された楠田は、口をぽかんと開けてやや放心状態になっていたが、すぐに我に返る。
「榎野、モッテモテか…。」
そういえば、自分と付き合う前はノリの軽い男だった気がする。
『…榎野センパイの友達って、男の人だけどなんか可愛いですね。』
朱野の声が、耳に響く。
でも、と楠田は暗い横顔で呟く。
「…君達ほど、かわいくはないよ。」
ステージが始まったのだろうか。校舎側から賑やかな音楽が流れてくる…。
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