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飢えているのは血じゃなくて5
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自宅の玄関で、吸血鬼に思うがまま口腔を貪られ、年上の男の吐息はあがっていく。
胸元に這う手を掴むが、腕は止まらず、服の裾から中へと忍び込んでくる。
「『待ってくれ、吸血鬼さん。』と、狼さんは言いました!!」
楠田は、何故か物語調に後輩を止めようとする。
「『知っているかい、狼さん。俺とアンタは身体の相性がいいんだ。』と、吸血鬼はやめようとしません。」
付き合う榎野は、真顔である。
「『相性って、どういう意味??』狼さんは訊きましたッ!!」
「『君は血の気が多いから、吸血鬼である私が少しぐらい血を吸っても平気なんだよ。』と吸血鬼は説明します。」
「『でも、今の俺は吸って欲しくないなぁ。何故なら腹ペコなんだ。』と狼さんは断ります。」
現実世界では、扉を背にしている年上の男を剥こうとする榎野の両者一歩も譲らない攻防戦が始まっている。
「『血をくれると誘って来たのは君だよ、逃げるつもり??』と吸血鬼は言いました!!」
「『もちろん、ご馳走するさ。その前に、俺は腹を膨らましたい。』と狼さんは頼みます!!」
そこで、急に榎野が獲物から手を離す。楠田はほっとして、両腕を下ろした直後、視界は暗転しあっという間に床に組み伏せられている。
「で、出来るならベッドがいいです、榎野クン…。」
年上の男が発するか細い声に、相手は小さく頷く。
「わかりました、譲歩しますよ。狼さん。」
「戻れッ!!いい加減、吸血鬼から人間に戻ってくれ、榎野!!」
楠田の突っ込みが、玄関に響き渡っていく…。
楠田がベッドの淵に腰掛けると、何を思ったか。相手は楠田の足と足の間に手を伸ばそうとしてくる。楠田は慌てて股をしっかり閉じる。
「なな、何考えてんだっ!!初っ端からダイレクト過ぎんだろ!!」
相手のクレームに榎野は頭を傾げ、いえ…と説明しだす。
「あまり酔っていると、身体が反応しないと聞いたので。」
「俺はそんなに酔ってないし、理性だってきちんと残っている。」
え、と戸惑う榎野に年上の男は焦れったくなって答える。
「あ~、もぉ~…!!そうですよ!!俺はお前が女の子に囲まれてばっかいるから、妬いたの!!そらもう、こんがり妬きあがりました!!」
悪いかよ…と俯く年上の男を、榎野はそっと押し倒す。四つん這いになった榎野は、頭を落として唇を重ねる。触れるだけの、ささやかなキス。
「…何が悪いんですか。俺は、今楠田さんが数千倍可愛く見えて仕方ない。物凄く嬉しいですよ??」
「女の子達のが超絶可愛いに決まっているじゃん…。何で俺なんかと付き合うんだよ…。」
手のひらで顔を隠そうとする楠田に、相手は少々荒っぽく腕を退けさせる。
「そうやって恥じらう姿が、俺には堪らないんですよ。」
それに、と榎野は続ける。
「可愛い楠田さんと付き合っていると、初めてがいっぱい手に入って嬉しいです。楠田さんの処女を貰ったのは俺。楠田さんの身体を初めて開発するのも俺。楠田さんに初めてのSMプレイを経験させられるのも、俺…。」
「おい、急上昇中の変態ゲージをどうにかしろ。王子の仮面外れてっぞ。」
楠田がいちゃもんをつけると、恋人はくすくすと肩を震わせる。
「好きな人が目の前にいて、王子の仮面なんてつけていられる人はいませんよ。本気で好きなら、素顔で迫るしかないじゃないですか。」
「す、素顔はいいけど…。」
楠田はごくりと唾を飲み込んでから、相手に告げる。
「…お前、最近抱く時…何ていうか。は、激しい…。」
「楠田さんこそ、声を変に我慢するようになりましたよね。俺の肩噛んだり、自分の手ェ噛む…。」
「バ…ッ!!おっ、お前がめちゃくちゃにするから!!かっ…、感じ過ぎて怖いっつか…。」
耳まで真っ赤になる年上の男に、榎野は目元を和ませる。
「でも、最後には啜り泣いて声枯らしちゃうんですから、我慢するのは徒労に思いませんか??」
「お前が手加減してくれないから…っ」
「同じ男ならわかるでしょうけど、裸で好きな人と抱き合っていたら、抑制なんて効かないですよ。」
しばらく沈黙のあと、楠田は渋々といった体で頷く。
「わかった…。なら、思う存分血を吸え、吸血鬼。」
「はい、いただきます。あと…。」
榎野は年上の男の耳元で柔らかく微笑む。
「俺が飢えているのは、血じゃなくてあなたなんですよ、楠田さん。」
〈飢えているのは血じゃなくて END〉
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