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顎乗せ動画と5/28(和秋視点)
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「顎かぁ……」
朝の情報番組で、今流行っているらしい”顎乗せ動画” を見たヒロは、急にそわそわとした面持ちで、俺の様子を伺ってくる。
顎乗せ動画を撮りたいのか?
「してみたい?」
「え、いいんですか?」
「したいんなら、撮ってあげるよ」
流行りものに敏感な年代だし、元々ヒロはこういうの好きみたいだしな……。
今日は月曜日。まだ出社までは時間はある。俺はあまり動画に興味が無いが、恋人がしたいのなら撮ってあげるくらいは協力しよう、とスマホを頂戴と手を差し出した。
「え、俺のスマホで撮るんですか?」
「え、俺の方で撮るの? まぁ、転送すればいいか」
「はい、じゃあどーぞ」
右手でスマホを動画にし構え、左手を差しだす。
「じゃ、行きますね」
部屋の端から、チョコチョコとペンギンみたいに寄ってきて、手のひらにそおっと顔をのせ、俺を見ないで目を左右に動かした。
「……」
こ、これは……結構、可愛い。いや、かなり可愛い。このままハグしてキスしてベッドへ……場所を移したくなるくらい、かなり破壊力のある画像だ。
いやいや。俺、出社前だし。時間はあと30分しか無いし。
「撮れました?」
ヒロが、怪訝そうな顔をして聞いてきて我に返った。
「あ、ああ」
「それ、送ってください。みんなに見せます、で、和秋さんのも撮りたいんです」
「……え!? 俺?」
「そう、ちゃんと二人分」
「ちゃんと、の意味が分からないんだけど?」
「え、カップルだから。いいでしょう?」
「みんなに見せるって……」
「ああ、俺、もうみんなに言ってるんです。一緒に和秋さんと暮らしてるって」
「……?」
いや、ヒロの住む此処に越してきてまだ一週間だ。周りに言うのが早くないか?
「なんか、へんな顔してる」
「い、いや。周りになんて言ったんだ?」
「そりゃ、俺には恋人がいて、同棲してるって」
「で、動画を見せるのか?」
「はい、見せます。いけないですか?」
悪びれるふうでもなく、いともあっさりと肯定されて俺はたじろいだ。いや、付き合ってるのは紛れもない事実、同棲だってそうだ。でも、周りに言って回るほどの事でもない。
「ラブラブだって、分かるでしょう? ね、だから今度は俺が撮ります」
にこぉ、と微笑んで、今しがた俺がしたように、自分のスマホを手に持ち、俺に向かって手が伸びてきた。
は、恥ずかしい。俺にペンギンみたいに歩けっていうのか?
む、無理。ヒロは可愛いが俺は普通のオッサンだ。絶対にオカシナ映像になるはずだ。
拒否したい、ヒロのオネダリでもこればっかりは……。と思いつつ固まっていると、差し出した手をクイクイと動かし、ほらほら早く、と強請られる。
「早くしてください、腕が怠くなってきましたから」
止めればいいのにいつまでも俺を待っている。
怠いと言ったのに、じいっと腕は下ろさない。う、マジで、しなきゃならないのか?
仕方ない、変な画像ならきっと見せないはずだ、と渋々寄っていき、顎をチョンと乗せた。
妙に恥ずかしい。視線は泳がせるというよりも、泳いでしまうというのが正解だ。この状態で、ヒロをガン見するのは結構照れる。
「っ、か、可愛いんですけど」
ヒロの手がプルプル震え、ん? と思った時にはスマホは床のラグの上に落ちている。そのままキュッと抱きしめられたと思ったら、強引にキスをしてきた。さっき飲んだコーヒーの味がする。
「っ、ん……」
朝から、何ともいえない濃厚なキスをされ、頭がクラクラしてきた。ヒロの舌が俺の口内を慣れた様子で動いて、俺の舌に絡みついてくる、ダメだ、コレ、下半身直下型のキスだ……。
「ね、俺。ガマン出来なくなっちゃった。ベッド、行きましょう」
「え、俺、時間が!」
「大丈夫。抜きっこならそんなに時間掛からないし」
「ちょ、ヒロ? 時間無いって!ーーー」
結局、一回抜きあっこに至り、慌てて出社する羽目になった。
昼休み、スマホがヒロからの着信を知らせる。
『今日は朝から美味しい動画を有難うございました』と書いてある。
そこに添付された画像は、俺自身の朝の顎のせ動画だ。
「……マジか」
自分のあられもない姿に、俺はそれ以上言葉も出ない。
『俺の誕生日プレゼントとして、大事に保存します♡』と追記が来た。
5月28日は、そう。ヒロの誕生日だ。去年は大したお祝いをしてやれなかった。
『保存はいいけど、ヒロのも、俺のも。皆に見せたら今晩のプレゼントはナシだよ』
と、釘をさし、送り返す。
二人の秘め事は、二人だけで共有したい。
可愛いヒロの画像なんか、誰にも見せたくない。
全部、俺が独占したいのだ。
おしまい。
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