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海蛍 24
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生きていることを悟られぬように、ふたりは波間に漂うゴミのように彷徨う。
艦が半分近く沈んでいる。
沈む勢いで渦巻いた海流に飲まれそうになるが、目立たぬようにそれでも必死にもがき続けた。
海が夕日に染まるころ艦首は完全に沈み周囲には遺体やゴミとかした艦の備品が至る所に浮き漂っていた。
「もう少しで日が暮れる。
生存者の確認をしているあの敵機を欺けさえできれば……」
その時だった。上空を旋回していた戦闘機の一機が、浮遊物へと憎しみを込めた射撃をしてきた。
遥か彼方から海水へと無数の弾が撃ち込まれる。
その道筋は日向と薫の方へと確実に向かって来ていた。
咄嗟に日向は大きめの漂流物を背に被るようにして、薫に覆いかぶさった。
動きを止めて息を殺す。薫は左肩と右足に痛みと同時に強い熱を感じた。
今、騒げば確実に的になる。薫は血が滲むほどに唇を噛みしめ機銃の嵐が去るのを待った。
水平線に陽が沈む頃、敵戦闘機は一斉に引き上げた。
あたりは波の音だけになった。
「怪我は……ないか?」
自分を覆う日向の声が聴こえてきた。
「左肩と右足に一発ずつ喰らいましたが、大きな出血はしてはいないから大丈夫です」
薫は安堵の息を吐きながら言った。
自分を覆う隙間から鮮やかなほどの朱に染まった空と海が見える。
「こんな時でも夕日って綺麗なんですね」
笑いかけた時、薫は気付いた。
自分の視界の朱色が夕日の色だけではなかったことを。
「日向艦長!?」
慌ててうつ伏せになった日向を仰向けにする。
日向を囲む海が、純白の軍服が朱色に染まっていたのは日向から出ている夥しい血だった。
「艦長!しっかり、気を確かにっ!!」
薫は叫びながら日向を揺さぶる。
左腕、下腹部、両足と何発もの銃弾を身体で受けた日向は痛みと出血で意識が朦朧としているらしく、唇は震えるが言葉が出ない。
周囲に流れてきた紐を手繰り寄せて腕と足の止血を試みる。
しかし、出血は止まる気配がない。
下腹部に手を当てて止血をしようとした時、その手を日向が制した。
「お前の衛生兵としての任務は終了だ、ありがとう……」
泣きそうな薫に日向は痛々しい笑顔を向ける。
「私の任務に終わりはありませんっ!
たった一人であっても兵士が生きている限りは!」
波に薫の涙が散っていく。日向はその涙を手で拭ってやる。
「衛生兵としての仕事は終了だが……
ここから先は、俺の我が儘をきいて欲しい」
「何ですか。仰ってください。自分に出来ることなら何でも致します」
「お前の声を聴いていたいんだ。
何でもいい……頼むから話をしてはくれないか?」
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