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海蛍 33
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薫に取ってアランは人種を超えた生まれて初めての親友になっていた。
アランが自分を殺したとしても、戦勝国の兵士であるアランには余るほどの言い訳がある。
しかし、アランは一貫して薫を差別することなく対等な人間として扱ってくれた。
日向も自分を慈しんでくれたが、アランのそれが友情なのだと雨の中、薫はやっと気づいた。
「アランには汚らわしいと思われるかも知れないけれど……」
薫は日向とのことを話し始めた。
姉以外、生まれて初めて自分を人間として扱ってくれた日向に対して、本来、同性へ持つべきではない情愛を抱いてしまったこと。
日向は立派な人間であり部下が薫を犯したことに責任を感じ、そして、自分の境遇を憐み自分の気持ちを受け入れてくれたこと。
山の中での温泉で満たされた時間を過ごしたこと。
そして、日向の部下として同じ艦に乗り出撃したが日向は最後まで自分を庇い護り自らの腕を切り落としてまで薫を生かしたことを、時に言葉を途切れさせながらも話した。
気付けばあたりは静寂に包まれていた。
それまでの雷雨が嘘かのように空には星が瞬いていた。アランはドアを開け外に出た。
「星が綺麗だな」
そう言うと無言のまま空を見上げ続けた。
やはり言うべきことではなかったかと薫はばつの悪い思いで車から降りるとアランの横に立った。
そして言った。
「今の話、すべては私の勝手な思いから始まったことなんです。
人の道に外れるようなことを仕向けたのは私であり、日向艦長は情け深い素晴らしい人だったことは理 解してください」
「カオルは命をいくつ持っているんだい?」
それは、薫の話にそぐわないアランからの問いだった。
「命って……ひとつに決まってます。
ひとつしかないから、大切にしなければならないし……」
「その大切なたったひとつしかない自分の命を、カオルは同情なんかで簡単に他人に差し出したりできるのかい?」
薫はその問いに対して言葉を詰まらせた。
「キャプテン・ヒュウガが太平洋上でどんな思いで自らの腕を切り落としたのかを、目を逸らすことなく考え るべきだと私は思うよ。
キャプテン・ヒュウガは君を命懸けで生かした。
そして、キャプテン・ヒュウガもまた、君を愛したという事実を歪曲してはいけないよ。
それはキャプテン・ヒュウガを冒涜することにもなるのだから」
今、異国の地で僅か前まで「鬼畜」「敵国人」と教え込まれていたアランが、自分と日向のことを認めてくれたことが嬉しかった。
「いいかい、自分の幸せは他人の価値観で他人が決めるものではないんだ。
さぁ、ひと眠りしようか。このオンボロ車が壊れる前に何とか故郷に行きつかないとな」
アランは笑いながら大きな手で、薫の頭を少し荒っぽく撫でた。
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(アメリカ海軍では『大佐』を『Captain(キャプテン)』の名称で呼んでいました。同じ階級である『大佐』=『Colonel(カーネル)』の名称は陸軍と陸軍航空隊で使用されており、この話ではアランが日向を『大佐』=『Captain』と呼んでいます。
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