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海蛍 45
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破傷風の死亡率は今も50%と言われている。
医療体制が整っていない土地では、限りなく100%に近い数字となる。
戦後、アメリカと言えども薬品や医師不足などにより、地方での破傷風発症は死を覚悟する
感染症でもあった。
薫はすぐに薬品棚を開けて、そばにあった薬品備蓄一覧と照らし合わせて薬品のチェックを始める。
しかし、薬品はアランがセイラムから戻らねば万全とは言えない状況だった。
アランからこの土地に住むのなら、破傷風の対処の仕方を心得ていないといけないと何度も何度も
教えを受けた。しかし、それを実践するには使うべき薬品や医療備品があまりに少なすぎた。
『落ち着け、落ち着くんだ。使うべき物がなければ、代用出来る物を探し出せばいいんだ。
ある、きっと代用できる物をアランはここに残しているはずだ!』
手の震えを悟られぬよう、薫はいくつかの薬品を手にすると母親に向って言った。
「これから娘さんは大変な闘いに挑むことになります。
私も命懸けで闘います。どうか手伝ってください」
薫がクロエを見捨てずに、病と闘うと宣言したのを聞いた母親は跪いたまま薫を仰ぎ見る。
「何でも言ってください。言われた通りに動きます!」
母親は涙を拭き立ち上がった。
「奥の備品庫にたたんであるカーテンやシーツがあります。
ありったけここへ持ってきてください、すぐに!」
駆けだした母親の足が出入り口で止まった。
「早くっ!」
しかし、母親は動こうとはしない。
思わず振り返った薫。
「俺の大切な一人娘を、黄色いサルのお医者さんごっこにつき合わせるわけにはいかねぇな」
その視界に入ったのは、憎しみを滾らせライフル銃を構えたジョージの姿だった。
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