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海蛍 54
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「無理ばかりして、自分のことなんて考えもしなくなった時はね……
自分の大切な人のことを思いだすの。
その大切な人が同じ様に無理をしていたら、自分ならば何と言うかって。
『少しは休んで』『無茶しないで!』どう?色々と言葉が浮かぶでしょう。
そうしたら、その言葉を大切な人が自分に向けてそれを言ってることを想像するの」
アンナの言葉は薫の心の奥底から、封印していた日向の存在を引きずりだした。
『生きろ、何があっても生き抜け』
今、日向の声が聴こえた。確かに薫には聴こえた気がした。
「余計なことなど考えなくてもいいの。
その大切な人の言葉を受けて、自分がどうするべきかを考えて……
今、何が起きたとしても、もうこの町の者は誰もあなたを責めたりはしないわ。
だから少しだけ、少しだけ休みましょう、ドクター」
アンナの言葉が薫を包み込む。
薫の頑なな心に、その言葉は静かに染み入り、幼子のように無防備にされていく。
薫は既に、心も身体も限界を超え悲鳴を上げていた。
意識が次第に遠のいていくことが心地よくなってくる。と、その時だった。
「ドクター!クロエが、クロエがっ!!」
診察室でジョージが大声で叫んだ。
薫は瞬時に立ち上がると、転がるように診察室へ駆け込んだ。
マグカップが転がり、床を濡らし揺れていた。
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