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海蛍 61
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「おい、アラン。本当か!?」
「カオルが本物の医者になるのか!」
「この町に医者が二人になるのか?素晴らしいじゃないか!!」
アランの口から出た、薫の医科大学進学宣言に町は一気に沸き返った。
「みんな、慌てず聴いてくれないか」
若干トーンの低くなったアランの声に、皆は黙りアランを見つめる。
「実はその件も兼ねて私はセイラムへ行ったんだ。
戦争が終わってまだ日も浅い。
正直、いくらカオルが優秀であっても、そう簡単に思いが叶うとは私も考えてはいなかった。
だが、ここが無医村状態になっては大変だ。私はこの件にかかわる部署を回り続けた」
「おい、アラン。お前がいるのに無医村状態って……?」
訝し気にアランを見つめ問いかけるジョージ。
「実は私の身体の中に厄介なものが見つかってしまってな。除隊したのも上からの命令だったんだ。
そう長くはない余生を、思うままに静かに過ごした方がいいってな」
そうだ、出会って間もなく、確かにアランはこのことを薫に告げていた。
それから、あまりに色々なことがあり過ぎて、そのうちアランがいるのが当たり前になっていて……
いや、違う。薫はその真意をアランに問うことが怖かったのだ。
やっと得た兄であり親友であるアランを失う恐怖に、何事もなかったかのように背を向け続けて
いたのだ。姉を失い、日向を失い、そして、今度はアランを失うのか……
薫の身体が小刻みに震えて来る。
「嘘だよね、ねぇアラン?
そう、アランはいつもこんな冗談を言って、オレを笑わせてくれるんだ。でもね、アラン。
こんなたちの悪い冗談はだめ。だって……冗談だって、
わかっ……ていても、オレ、わ、笑えない……し」
アランを仰ぎ見たまま、薫の瞳から大粒の涙が止めどなくこぼれ落ちる。
「冗談なんだろ。な、アラン!?」
苛立つジョージの声が、無音になった闇に吸い込まれる。
「私に選択権があるのなら、すぐさま拒否したんだがな。
残念ながら神様がそう決めてしまったらしい。
なぁに、ライナスに会うのが少しばかり早くなっただけさ」
アランは笑った。
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