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海蛍 62
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「俺は絶対に認めないぞ、お前がいなくなっちまうなんて!
お前らマイヤーズ家はもっと友達を大切にしなきゃだめだろ?
ライナスにしろお前にしろ、一体、どうなちまってるんだよっ!!」
ジョージはそう叫びながら、アランに掴みかかった。
「だから……だからこそ、この町で今後も安心して住めるように、無医村にならないように
みんなで考え行動しないといけないんだ。カオルがドクターになれば、私は安心して逝ける」
自分の胸倉を掴むジョージの手を解くアラン。ジョージもまた泣いていた。
「州立医科大学へ進学すべき要綱はどうにかクリアできた。
しかし、奨学金を利用してもまだ医科大へ進むには難しいんだ。
そこで私はここにいる町のみんなに心からお願いしたい。
みんながここで貧しく、日々の糧をやりくりしながらやっと暮らしていることは私もよく知っている。
それを知りながらも私は声を大にしてお願いしたい。
みんなで協力してカオルが卒業して医師になるまでの環境を整えてやって欲しいんだ。
これはカオル個人の夢を果たすためではない。
この町に医師がいなくなるという大事を解決する手段なんだ。
私の命は今日明日直ぐに召されるって訳じゃない。まだ猶予はあるんだ。
来年の受験までは今まで通り、この診療所で私の片腕として働いてもらうつもりだ。
確かな言語に必要な知識を、来年の受験まで私が責任を持ってきっちりとカオルに教える。
どうだろう、このカオルに町の未来を託してはくれないか?」
アランは薫の背に触れ、前へ押しだした。
「無理です!そんなこと無理に決まってます。第一、荷が重すぎます、自分には……
私が育った土地も貧しく娘を身売りしなければ、家族が生きていけない程の地獄でした。
だから、この町が今、どうなのかっていうことは私にも理解できます。
そんな皆さんから援助を得ての進学なんてあり得ません!」
後退りする薫の背を止めるアランの大きな手。そこからアランの震えが伝わってくる。
アランは決して思い付きなどで言いだした訳ではない。
アランもまた、町の存続にかかわることを真剣に考えてのことだったのだ。
「カオルは医師になることが夢だった。
しかし、家が貧しくてその夢は叶わなかった。でも、夢を捨ててはいなかった。
いなかったからこそ、カオルは衛生兵という道を選んだんだ。
カオルの人柄や能力はもう、町のみんなもよくわかっているだろう。
私の不在中に耐えがたい傷を負ったにも関わらず、クロエの命を守ってくれた。
人として、医師としてカオルがこの町に必要な人材だと、戦争を終えてこれから復興していく
この町にカオルは絶対に必要だと私は、この命を懸けて断言する」
アランは自分の命よりもこの町の行く末を考えていてくれていることが、痛いほどにわかった。
本来なら命の刻限を告げられ、絶望し自暴自棄になっていても仕方ないというのに、アランは
人として、医師としての自らの命を薫に懸けると宣言した。
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