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海蛍 100
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木陰でふたりはミツの弁当を食べた。
卵焼きにかぼちゃの煮つけと、ミツは相当奮発してくれたようだった。
薫にとってはごちそうであっても、果たして田中の口に合うのかと不安だったが、田中はどれも
「美味いなぁ、家庭の味はいいなぁ」
と、何度も頷きながら、残すことなく弁当を平らげた。
「これでハンカチの件はお終いだからな。
下宿のおばあちゃんにくれぐれもよろしく伝えてくれ」
田中もまた、ミツ同様に自分の大切な人を尊重してくれる。
心の何処かで性格も外見も全く違うはずの日向やアランと過ごした頃の、あの穏やかな気持ちが蘇る。
自分は何と恵まれているのだろうかと思う。
あれ以来、薫に危害を加えた連中は、薫を意識しながらも鳴りを潜めている。
厳密にいえば、常に薫のそばに田中がいて手が出せない状態であった。
田中は薫の隣に座り、穏やかな表情ながらも薫の気付かぬところで連中に一瞥をくれる。
そこまで田中が入れ込んでいる薫に何かをしようとすることが、
自分たちにとって何の利益も生み出さないと悟った連中は以降、薫を睨んだり
無視することはあっても、直接危害を加えることは無くなっていた。
そんな田中の存在があり、薫は仕事や勉学に真剣に向かい合うことができた。
何に怯えることなく、勉強できる環境は薫にとっては嬉しく有り難いものであった。
「お前の下宿に行って、一緒に勉強してもいいか?」
初めての定期試験。範囲が発表された日、田中が薫に声を掛けた。
「オレの下宿!?別に俺は構わないけれど、狭いぞ。とにかく狭い。
西日が入るから暑いし眩しいし、食事だって大層なものはないぞ?」
訝し気に返事をした薫に
「たまには気分を変えて勉強ってのも、悪くはないと思ってな」
と、田中は相変わらず飄々とした表情で答える。
「じゃ、明日はどう?下宿のおばあちゃんに伝えておくよ。
食事と布団、田中の分用意してもらえるように」
「よし、交渉成立だな」
田中は目を細めた。
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