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目覚め1
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あつい。いたい。くるしい。
ゆっくりと浮上していく意識に心の中で苦い思いが広がる。あぁ、僕はまた…
もう一度眠ってしまえば今度こそ終わりにできるだろうか。そう思っても意識はだんだんとはっきりしていく。体中の痛みで自分が生きていると感じることにももう慣れっこになっていた。
「…か?でも……で」
遠くで男の人が話している気配がする。誰だろう。僕をおもちゃ扱いした人の誰かだろうか。
逃げなければひどい目にあわされる。霞がかかった思考ではどこかその現実を遠いものと認識してしまう。動かなければと思っても体は動かないのに、なぜか瞼だけが開いていく。
怖い。
うっすらと開いた視界に飛び込んできたのは男の腕だった。見慣れた肌色が自分の眼前にあることが一気に恐怖を呼び起こす。思わず身を固くして、違和感を覚える。
「ぁ……」
やわらかい。最後にいた場所は確かに冷たくてほこりっぽいコンクリートだったはずなのに。ここはベッドなのだろうか。
ベッドには良い思い出がない。殴られるか、縛られるか、使い勝手の良いおもちゃのように男たちの欲を散らされるか。
せめて目の前の人に目を覚ましたことを気づかれないようにしよう、少しでも猶予を手に入れよう、そう思うのにここがベッドだと思うと呼吸が勝手に乱れ始める。
「ぁ…はぁ…」
わずかに漏れた声に、肌色の主の声が止まる。
「目が覚めたのか?」
「ひっ」
いきなりのぞき込んできた男の顔に体が完全に拒否反応を示す。痛む体にむちうつようにむりやり遠のこうとしてもうまく動かない。思い通りに動く時間の方が少ないからだだけど、それが妙に不安を募らせる。
「や…やめっ…」
「お、おい大丈夫か?落ち着いて」
戸惑ったような男の声にも脳はうまく反応ができない。
ただ、目が覚めたことを知られた今自分にできるのは逃げようとすることだけだった。
男が手を伸ばそうとしてきたのを必死に腕で振り払う。
「いたっ」
男のその声にびくりと体が跳ねる。
こんなことをしたらきっと殴られる。そう思うのに、いや、そう思うからこそ抵抗に激高して殴られることで今度こそこの命を終わりにしたかったのかもしれないけど、とにかくやみくもに抵抗をつづけた。
一瞬ためらったように男の手が止まったのを見て、そのすきに逃げようとベッドから転げ落ちる。
傷だらけの体はやはりひどく痛むけれど、逃げるなら今しかない。生きたいのかこのまま殺されたいのか感情はぐちゃぐちゃで、どうしようもなかった。
必死に足を動かして少しずつ這うようにしてドアに向かう。男はまだ事態についていけないのか止まったままで、今ならまだ間に合うかもしれない、と何に対してかわからない焦りが生まれる。
「どうした今の音」
あと数十センチに迫ったドアはかちゃりと音を立てて開き、僕の体に影を差した。
「ぁ…」
「お、起きたんだね。どうした~」
僕を見て目を細めると、そっと手を伸ばされる。その手をまた振り払おうとしたのに、腕の傷がひと際大きく痛んだかと思うと気づいたときには入ってきた男は僕の腕をしっかりとつかんでいた。
こわい。必死の抵抗なんて通じない大人の男の人。
きっとこの人はさっきの人の仲間だ。逃げようとしたことを知られて怒られる。殴られる。バクバクとうるさくなる心臓は呼吸すら上手にさせてくれないのに、心だけはだんだんと冷えて冷静になってくる。そうだ、僕は抵抗するべきじゃなかった。
「ぁ…ごめんなさ…」
せめて小さな声で謝罪の言葉をつぶやけば、さきほどまで固まっていたベッドの横にいた男が僕の後ろに回ったのがわかった。死角に回られるのは怖い。何をされるのかわからないから。
次に来るであろう衝撃に備えて僕は固く目をつむった。
「よしよし、大丈夫だからね」
触れた体温に、一瞬殴られたものと錯覚して体がひどくこわばった。一瞬遅れて、痛みがやってこないことに疑問を抱く。
後から入ってきた方の男が僕をまるで幼い子供をなでるように触れていた。
しらない。こんな触り方知らない。怖い。こんな触れ方はまるで大事な人にするものだ。怖い。
「大丈夫、大丈夫」
そう言われれば言われるほど、男が狂気じみたものに思えて呼吸がだんだん早くなる。だめだ、この人は怖い。少し前に自分を飼った人物のように、異常な性癖をもっているタイプの人間かもしれない。そうだったらこの人の望む動きができなくなった瞬間に殺される。
怖い。何もできない。
「寛人、まだこの子混乱してるみたいだからこれ飲ませてもう一回眠らせてあげて」
後ろからかさりと紙の封筒の音がして、先ほどまでベッドにいた男が僕に触れる男…ヒロトさんに錠剤を渡す。
薬は、嫌いだ。
ペットボトルの水と薬をそれぞれの手にもったヒロトさんから逃れようとするのに、後ろの男がそれを邪魔する。この薬は一体何なのだろう。感覚をマヒさせるものだろうか。せめて今まで何度も使われたあの恐ろしい快感を引き起こすものでなければいい。
「これ、飲もうね」
僕に向けるにはあまりにも優しい声色は、むしろ僕に選択肢を与えてくれない。
「ひっ」
「大丈夫、気持ちを落ち着けて休めるだけだから」
そんなわけない。そんなものあるわけない。たとえ世の中にそういう薬があるのだとしても、それは僕のためのものではない。
だけど、きっとこの人たちは僕がこれを飲まなければ解放してくれないだろう。今更抵抗するのもばからしいかもしれない。震える口を無理やり開けて、ヒロトさんの手からその錠剤を喉の奥に流し込む。固形物をしばらく通していなかった喉はそれを拒否しようとして吐き出したくなるけれど、必死に飲み込む。
「苦しいね…大丈夫だからね」
「すぐに休めるようになるからね、もう大丈夫だよ」
口々に「大丈夫」と繰り返す二人の声をどこか遠くで聞きながら、やがて意識が落ちるまで僕は必死にその感覚に耐え続けていた。
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