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2年生に進級し、数日の月日が経った。
親友である慎吾とはクラスが離れ、1年生の時同じクラスだった友達とも見事に離れてしまった壮馬は、どうしたものかと小さくため息を吐いた。
教室では1年生の時同じクラスだった者達が小さなグループを作って談笑していたり、壮馬のようにまだ馴染めず一人自分の席で携帯を弄ったり、机に突っ伏したり、他のクラスにいる友人の元へ行く者がいる。
(次の授業までまだ時間あるかー…)
教室に備え付けられている時計を見て、壮馬は残りの時間をどう過ごそうかと思案する。机に突っ伏して目を閉じておけば、知らずの内に時間は過ぎてくれるであろう。そう思い立った時だった。
「なぁ、次の授業って何か分かるか?」
突然、何者かに話しかけられそちらに視線を向ける。
肩幅が広く、がっしりとした体つき。小麦色に焼けた肌に、人の良さそうな顔をした人物。
「あー…次は確か英語だったはず」
「マジか、サンキュー。俺、昨日貰ったばかりの時間割早速無くしてしまってさぁ」
壮馬は突然話しかけられた事に少し驚きつつも、質問に答える。その男子生徒は壮馬に礼を告げると、そのまま何も言ってはいないのに話を続け出した。それに一瞬呆けた壮馬だったが、「何やってんだよ」と小さく吹き出しながら昨日貰って鞄の中に突っ込んだままの時間割表を机に出した。
「これ、写真撮っときなよ。写真を消さない限り、時間割無くさないだろ」
「そうだな。悪い、助かるわ」
壮馬の言う通り、男子生徒は自身の携帯で時間割の写真を撮る。パシャリと乾いた音が何度か鳴るが、写真がブレて字が読みづらかったりするものが何枚かあった為、何度も何度も撮り直す。
「写真撮るの下手くそかよ」
「うるせー、慣れてねーんだよ」
笑いながらも漸くマシな写真を撮り終え、男子生徒は再び壮馬に礼を告げる。
「マジで助かったわ。クラス替えで知らねー人ばっかで誰に聞いたらいいか困ってたところでさ」
「大したことしてねーよ。あれ、てか俺のこと知ってたのか?」
「いや、全然。でも1年の時加藤慎吾とずっと一緒にいてただろ?それで顔だけ覚えててさ。あ、俺は奥田涼。1年の時は4組だった。適当に苗字でも涼でも好きなように呼んでくれ」
「あー、なるほど。そういうことね。俺は立花壮馬。よろしく。俺も好きなように呼んでくれても大丈夫だよ」
奥田涼(オクダリョウ)と名乗る男子生徒の言葉に、壮馬は確かにアイツは目立つからなと一人納得する。どこにいても目立つような人物の隣に常にいれば、確かに名前は知らなくとも顔だけでも覚えられるか。と。
「んじゃ、壮馬で。いやでも、良かったわ。壮馬がいてくれて。同じクラスのやつとバラバラになってさ、もうクラス内でなんかグループみたいなの出来てるし、馴染めるかどうか不安だったわけよ」
「そうか?俺的には涼はコミュ力高いからそんな不安にならなくてもいいと思うんだけど」
「俺コミュ力高いか?」
「顔だけ覚えてるってだけで俺に話しかけてぐるくらいだからな」
首を傾げる涼にそう返せば、涼は「くはっ」と吹き出して大きく笑った。
※
「壮馬ー、昼飯一緒に食ってもいいか?」
「え、いいの?」
「いいのって、壮馬が良ければの話だけど」
午前中の授業が全て終了し、昼休みがやってきた。机をくっ付けて弁当箱を広げる女子や、食堂に行く男子生徒、別の場所で食べようと荷物を持って移動する者で、教室内だけではなく校舎内も人で賑わっていた。
そんな中、壮馬は慎吾の元へ向かおうと荷物を手にしたのだが、友達になったばかりの涼にそう誘われた。折角新しく出来た友達からの誘いである。無下にする訳にもいかない。
「うん、いいよ。あ、でも慎吾も一緒だけどいい?」
「俺は別に構わないが、あっちの方は大丈夫なのか?」
「慎吾なら気にしないと思うから大丈夫。慎吾、先に食堂に行ってるから一緒に行こうぜ」
1階にある食堂に向かえば、そこは人でごった返していた。厨房にいるおばちゃん達が忙しなく動き回っている。食券売り場や受け取り口には長蛇の列ができており、壮馬と涼はその間を掻き分けて慎吾の姿を探す。
「相変わらず、すげぇ人だなぁ」
「あぁ…本当だよな。えーっと慎吾は…、あ、あそこだ」
窓側の席に座る慎吾の姿を見つけ、壮馬は涼と一緒にそちらへと向かう。肩を叩けば、携帯から顔を上げた慎吾はすぐに涼に気づき、壮馬の方を見る。
「慎吾、コイツ俺と同じクラスの奥田涼。急で悪いんだけど、涼も一緒に昼飯食ってもいいか?」
「あぁ、別に大丈夫。丁度三人分の席も空いてるし。えっと…奥田涼、くんだよな?俺は加藤慎吾。よろしく」
「あぁ、あんたの事は1年の時から知ってるよ。別に君付けなんてしなくていいぜ。好きなように呼んでくれ」
「そう?じゃあ俺も、涼と呼ばせてもらうよ。俺のことも好きに呼んで」
軽く互いに自己紹介を済ませた後、3人は予め慎吾が取っておいたテーブルに腰を下ろした。
「2人共弁当か?」
「いや、俺はいつもは弁当なんだけど、今日は食堂。涼は?」
「俺は弁当も持ってるんだけど、これだけじゃ足りなくてな。今から食券買いに行こうとしてたんだが、一緒に行くか?」
「じゃあ一緒に行こうぜ。慎吾、ちょっと行ってくるな」
「あぁ、行ってらっしゃい」
財布と携帯を片手に席を立つ2人を慎吾は見送る。2人は長い列が出来ている食券売り場に向かうと、何を食べようかなど受け取り口に掲げられたメニューの札を見て思案する。
「何食おっかなぁ」
「俺はラーメン」
「決めるの早いな。じゃ、俺もそれにしよ」
「適当だな」
「いいじゃねぇか」
食券を買い、厨房のおばちゃんに提示すると番号札を渡される。2人はそれを手に他愛もない会話で時間を潰す。ふと、涼が慎吾が待つテーブルへと視線を向け「うわ」と声を上げた。壮馬も涼につられてそちらへ視線を向けると、「あぁ」と苦笑する。
「すっげえ。ちょっと目を離した隙に、もう女子が集まってる」
「慎吾はモテるからなー」
羨ましそうにそう呟く涼の視線の先には、女子に囲まれる慎吾の姿があった。
顔面偏差値が高く、常に人の輪の中心にいるような慎吾は当然異性からモテる。去年、慎吾の隣にいた壮馬は如何に慎吾の元に女子が集まるかを身をもって体感していた。
「早く戻ってやらねーと」
そう壮馬が呟いたと同時に、自分の番号が呼ばれた。急いで番号札を渡して出来たてのラーメンを手に慎吾の元へ戻る。
壮馬達が戻ってきた姿を見ると、僅かだが慎吾に安堵の表情が浮かべ、そしてすぐに助けてくれと目で訴えてきた。慎吾に絡んでいる女子グループは、バッチリと化粧を施しており校則違反のスカートを身につけている割と派手なグループである。慎吾があまり好まないタイプの女子達だ。さて、どうしたものかと壮馬が思考を巡らせたその時だった。
「あれ?リョウじゃーん」
「なになに?リョウ、シンゴくんと仲良かったのー?」
「あ?なんだお前らかよ」
女子グループの内何人かが涼に気づき、話しかける。去年同じクラスだったのだろうか、涼はごく普通に女子達と話をしている。
「何やってんだ、お前らこんな所で」
「今日なんか食堂行きたい気分で〜。でも人が多いし席も空いてないし、どうしようって思ってたらぁ、シンゴくんがいたから話しかけてた」
「そのついでに絡みに行こうみたいなスタイルやめろ。加藤も嫌がってんだろ?」
「え〜、そんなことないしぃ。全然ついでじゃないもぉん」
「はぁ、何でもいいけど、ほらどっか行け。俺達今からメシ食うから」
「ちょっと、女の子相手にその扱いひどくない〜!」
まるで虫を追い払うかのように雑に扱う涼に、女子達からクレームが上がる。それがいつものやり取りなのか、涼は女子のクレームに臆する事無く「はいはい」と適当に流す。
「じゃあ、丁度いいからここの席使いなよ。椅子も別のテーブルから持ってくればいいし。俺達、別の場所で食べるから」
それを見兼ねた慎吾は、荷物を持って立ち上がるとテーブルを女子達に譲った。涼とは正反対のその慎吾の対応に、女子達からは黄色い声が上がる。
「リョウもちゃんとシンゴくん見習いなよ〜!」
「だからモテないんだよ〜!」
「うるせー!関係ねーだろ!」
「アハハ!また試合応援行くね〜!」
「次の試合ガンバってー」
「へーへー」
手を振ってくる女子達に涼はひらひらと手を振り返すと、慎吾達の方を見て苦笑した。別の空いているテーブルへと移動し、冷めかけているラーメンに手をつけながら涼は壮馬達に「悪いな」と切り出す。
「さっきの、中学ん時の同期でさ。わざわざテーブル譲って貰って悪い」
「別に気にしてないよ。さっきの子達、涼の知り合いだったんだな。随分と仲が良いみたいに見えたよ」
「そうか?」
壮馬がそう言えば、涼は思い切り眉間にシワを寄せた。本人的にそうは思わないのだろう。だが壮馬から見れば、親しいから女子に対してあんな対応をとれるのではないかと思う。
「にしても、流石加藤。噂通りの紳士っぷりだな。女子が騒ぐのも分かるぜ」
「別に紳士じゃないよ」
ラーメンを啜りながら感心するようにそう口にした涼に、慎吾は困ったように小さく笑った。
「そんなにモテるなら、彼女の1人や2人簡単に出来るだろ」
「俺、そんなにモテないよ?」
「はいダウト。絶対嘘だったよな、壮馬」
「うん、明らかに嘘だった」
「そんなこと言うなら、涼だってモテるだろう?普通に女子と仲がいいし」
「あー俺はあれだ、女子と仲はいいけど恋愛として捉えてもらえないやつだ」
「「あぁ〜」」
自分に味方がいないと悟った慎吾は、反撃を仕掛けてみるがあっさりと敗れてしまう。逆にひどく納得してしまったのだ。壮馬と2人声を上げながら大きく頷く。
「なんか自分で言っといてなんだがすげぇ虚しい」
「あー、ドンマイ」
「うっせえ!そういう壮馬はどうなんだよ?気になってる女の子とかいるのかよ?」
突然自分に話題を振られ、壮馬は戸惑う。気になる女の子など、全く考えたこともない。彼女が欲しいかどうかと聞かれれば、別に欲しくはないし、いてもいなくてもどっちでもいい。というのが本音である。
「や、別に特には」
「はぁ〜?マジかよ。お前ら2人揃ってあれか?草食系男子ってやつか?」
「別にそういう訳じゃないけど…。涼、早く食べないとラーメン伸びるよ」
面白くない。とありありと顔に書かれた涼にまだ途中のラーメンを指させば、涼は黙々と伸びかけたラーメンを口に運んだのだった。
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