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「慎吾ー、帰んぞ」
その日の放課後、帰りのホームルームが終わり涼と別れたあと壮馬は慎吾の元へと足を運んでいた。
慎吾のクラスは壮馬のクラスよりも一足先にホームルームが終わっていたみたいで、教室を覗けば、掃除当番の生徒が少数と慎吾の姿しかいなかった。
「ごめん、壮馬。選挙の演説考えなきゃいけないから先に帰っててもいいよ」
「あ、結局立候補したんだな」
「クラスメイト達からも勧められたらな…。もう諦めて立候補するしかないかなって。それに、壮馬も手伝ってくれるみたいだし?」
「はいはい、男に二言はありません」
慎吾の机には数枚の作文用紙とペンケースが広げられていた。演説には、まず生徒会顧問の先生に提出し、文章構成や間違った日本語を使っていないか、規定の枚数分埋められているかどうかチェックしてもらう必要がある。
そのため提出期限が設けられているのだが、その期限は三日後の放課後までらしい。
「帰ってくれてもいいのに」
「別に、一人で帰っても暇なだけだし」
慎吾の前の席を拝借し、壮馬は荷物と腰を下ろすと、ただじっと慎吾が走らせるシャーペンを見つめていた。そんな壮馬に、慎吾は小さく笑うと黙々と作業を進める。
それからどれほどの時間が経っただろうか。騒がしかった校舎内は静まり返り、2人しかいない教室では時計の秒針だけの音が響く。
開いた窓からは春の微風がグラウンドで練習する運動部の掛け声を乗せて優しく吹き込み、真っ白なカーテンを靡かせる。
「壮馬」
「んー?」
「昼に涼が言ってたこと覚えてるか?」
「涼が?」
「壮馬には気になってる女の子とかいないのか、って話」
そんな空気を断ち切るように、ふと慎吾がそう口を開いた。
慎吾がそんな話を自らするなんて珍しい。と壮馬は数回目を瞬かせた。
慎吾と出会って約1年。今まで数え切れない程慎吾と他愛もない話をしたのだが、慎吾自ら恋愛関係の話題を出したことはあまり無い。壮馬自身もあまり自分の恋愛も他人の恋愛にも興味が無かった為にそんな話はしなかった。
「いねーよ。そう言っただろ?」
「本当に?」
「本当だって。そういうのあまり興味ないし…。そういう慎吾はどうなんだよ?」
食い下がる慎吾に、反対に壮馬も聞いてみる。
慎吾は一瞬口を噤むが、少し視線を泳がせた後何か決心したように壮馬をじっと見つめた。
「気になってるっつーか、好きな人はいる」
「はっ!?マジ!?」
声を少し潜める慎吾に反して、壮馬は思わず大声をあげた。ハッと我に返って壮馬も慎吾に習ってなるべく声を潜める。
「いつからだ?」
「入学してすぐ。一目惚れだよ」
「マジか。じゃあ1年間ずっと好きなのかよ」
慎吾が小さく頷く。壮馬は初めて聞く慎吾の恋愛事情に、少しドキドキしていた。あの慎吾が、一目惚れ。自分でも慎吾の話を聞いて興奮しているのが分かる。
「告白しねーの?」
「今のところ予定はない」
「何でだよ?慎吾なら絶対誰も断らねーよ」
「どこから出てくるんだよ、そんな自信…」
何故か自信ありげに答える壮馬に、慎吾が少し呆れながら嘆息すれば、「いやだって」と壮馬は続ける。
「慎吾、女は勿論同じ男からも割とモテるじゃねぇか。男だろうが女だろうが、絶対誰も慎吾の事断らねーって!俺だって断らねぇよ」
「へぇ、そうなんだ」
そう告げた壮馬の言葉に、慎吾の雰囲気が変わった。その変化に壮馬は戸惑い、口を閉ざす。何か自分は、良からぬことを口にしてしまったのではないかと本能が警鐘を鳴らす。
「この際、壮馬だけには言うけどね。俺、実は同性愛者なんだ」
「………へ?」
「同性愛者。同じ男しか好きになれなくてね。つまりゲイだよ」
突然の親友からの衝撃のカミングアウトに、壮馬は動きを止めた。あの慎吾が、実は同性愛者?ゲイだと?
誰が見ても突然の出来事に情報処理が追いついていない事が分かる壮馬に、慎吾は「こんな友達、嫌だよね」と少し寂しそうに目を伏せて呟く。
「…や、そりゃびっくりしたけど、別に嫌じゃない。寧ろ、言ってくれて嬉しい」
漸くなんとか情報の処理が追いついた壮馬が慌ててそう慎吾に伝えれば、慎吾は嬉しそうに微笑んだ。確かに、自分が同性愛者だと幾ら親友といえど打ち明けるのは相当勇気がいるであろう。だが、慎吾は自分に打ち明けてくれたのだ。それが何よりも壮馬は素直に嬉しかった。
「本当、壮馬は優しいな」
そう言って慎吾は席を立ち、いつの間にか出来上がっていた演説の原稿用紙を綺麗に束ね、ペンケースを鞄の中に仕舞う。
「壮馬のそういう所も、俺は好きなんだよ」
「…え?」
小さく笑みを浮かべながら告げる慎吾に、壮馬は慎吾を見上げる。
ふわり、ふわりと、春の優しい微風が開いた窓から吹き込んでくる。
オレンジ色の夕日に照らされた慎吾の色素の薄い髪が、キラキラと輝いている。
ーあぁ、綺麗だ。
「俺が一目惚れして今でも好きな子っていうのはね、…壮馬、お前だよ」
そう告げて、慎吾は教室を去っていった。
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