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「おお、綺麗」
数多もの雨粒が地面に小さな水たまりをいくつも形作っていくのを見守りながら、俺はほぼ無意識に呟いていた。
行き場所を求めるかのように、零落した葉から滴り落ちた雫の煌めきが本当に綺麗だったから。
「…こっちが…です」
ーあれ?今誰かの声が聞こえた?
微かな声が何処かから聞こえたような気がして、俺の意識はそちらへと移る。
学内なのだから人の声が聞こえるのは当たり前なのだが、今のこの静寂に包まれた空間においては、ほんの小さな声でさえ浮き立って聞こえるのだ。
「広いですね、すごい…」
心を一瞬でギュッと鷲掴みにするような、低すぎも高すぎもしない心地よい声が背後から聞こえてきて、思わず俺は後ろを見やる。
そして、時が止まるかのような感覚に襲われた。
―う、わ…、綺麗な人…
本当に時間が止まったのかと思った。そう感じてしまうくらい、目に入ってきたものの美しさに俺は驚嘆したのだろう。
汚れのない綺麗なものだけをかき集めて、それを人間にしたらこうなった。まさにそのような人間がイチョウの木の背後に佇んでいたのだ。
遠目でもその綺麗さと艶やかさが群を抜いているのが分かる。
「…はるの…、は…です」
雨音に掻き消されて明確な声は聞き取れなかったけれど、またもや静かで心地いい声が聞こえてきたことによって、「あれ?これは」と一年前の記憶が徐々に蘇ってくる。
まるで百合の花が泣いている、苦しんでいる。直感的にそう感じたあの日の情景が思い出されてくる。
なぜなら、その綺麗な人の隣に立っていたのは一年前に見た優等生だったから。
漆黒の、けれども少しだけ青っぽい艶やかな黒髪がサラサラと揺れる横で、痛みのない茶褐色の髪がサラリ、と揺れる。
「なんたる美形集団だ?」と俺は突っ込みたくなった。
優等生君、えっーと……確か多田、樹だっけ。名前以外のことは何も知らないけど、入学式の日の凄まじいあの美しさに皆目を奪われてたんだぜ?
美しさと儚さが融合して溶けあって、この世のものを超越してしまったかのような、そんな姿をしている。手を触れたら何処かへ消えてしまいそうで、でも手を触れずにはいられない。そんな魅力を持ち合わせている。
だけど「はるの」って呼ばれてた方も相当だな、こりゃ。名は体を表すと言うけど、本当にその通り。ふわっと舞う美しい桜の花びらのようだ。あまりに綺麗で、何も言葉が出ない。
はあ、世の中には凄い人達がいるもんだな、それもこんな身近にいるなんてびっくりだ。モデル集団だと言われても即刻納得するわ、と思いながら彼らを遠目に傍観していると「会長、勉強は大変ですか?」という言葉が明確に聞こえてきた。
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