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contact【接触】
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「名前、知って…」
「そりゃ、勿論知ってますよ。多田くん、有名だもんね」
当たり前じゃない、というような不敵な笑みを浮かべた蓮華先輩は「近くで見るとますます儚げだよね。酔いしれる…」と陶酔しきった表情で言葉を洩らす。
「いえいえ、そんな。……あの、こちらに入部させて頂きたくて伺わせて頂いたんです」
蓮華先輩は「何が起きているか分からない」というような呆けた表情を浮かべながら、小さな声で「えっ?」と呟いた。
「いいでしょうか?どうしても、ここで文章を書いてみたいんです。二年からの途中入部になってしまって、ご迷惑をお掛けしているのは重々承知しているのですが…」
本当に綺麗な日本語を話す奴だな、と思う。
多田からは、同年代から感じられるような不完全さや未熟さが微塵も感じられないし、何よりも生身の人間らしさが全く伝わってこない。まるで作り物であるかのように。
生きているはずなのに。今ここで息を吸って、確かに存在しているはずなのに。
それなのに、まるで凄腕の彫刻師に作られた人形のような造形をしたこいつは、最初からプログラミングされていた言葉を話しているように思える。
「あなたが、ここに入部?それ、真面目に言ってる?」
「……はい」
多田がごくんと息をのむ音が微かに聞こえる。
「……あああああありがとう!あなたみたいな人がまさか入部してくれるだなんて!えっ、ドッキリとかじゃないよね?夢でもないよね?違うよね?今更ドッキリですとか言われても取り下げないからね!学祭ではバンバン売り子をしてもらって!これで売り上げがきっと何倍にもなる…っ!」
機関銃のように勢いよくまくし立てる先輩のことを見て、俺は単純に「これはやばい」と思った。少人数でアットホームな空間だったこの場所が、これからどうなってしまうのか。多田が入部することによって、きっと何かしらの変化が訪れるだろう。
そんな不安もあったのだと思う。
蓮華先輩から視線をずらし左方向に顔を向けると、多田と目が合う。
その途端、胸に原因不明のモヤモヤとした塊が沸き上がるのを感じた。
ーあー、どうしようもなくイライラして気持ち悪い。
頼むから、心から笑えよ。作り物の笑顔を浮かべるな。お前は、人形じゃないだろう?
優等生ずらしやがって、心は泣いてる癖に、叫んでるくせに。……本当の姿を見せろよ。
「…これから宜しくお願いしますね」
多田の作り物のように優しい声が、俺に向けられる。
俺は多田から視線を逸らしながら「ああ」と言った。
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