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brightness【光の雨】
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「…っ、君、誕生日は…?」
花宮に視線をばっちり合わせたまま完璧に固まってしまった多田は、その疑問に対し呆然と「…八月、二日です」と小さく呟いた。返答を聞いた花宮は二度か三度瞳をぱちくりさせると、「…嘘」と囁いた。
この二人を取り囲んでいるバンドメンバーとスタッフ、そして俺は、明らかに只事ではないこの状況を外から俯瞰することしか出来ない。
類稀に見ない美しさを具現化したかのような人間が二人も同じ場に存在していて、しかも彼等が双子のようにそっくりだとしたら皆が押し黙るのも当然だろう。
「…嘘、一緒だ……う、そだろ…?」
花宮は多田の両手をバッと勢いよく掴むと「…ヤバくない?これ」と言葉を漏らす。
「……花宮、翔…?…私は何故知っているんでしょう?貴方の名前をどこかで聞いたことがあるような…」
こうやって改めて耳を傾けてみると、双方の声質が全く同じだということに気付かされる。というより、異なるのが服装と髪型と雰囲気だけで、二人が持ち合わせている身体のパーツは全くもって同様のものなのだ。合わせ鏡を介した同一の人間のように思える程度に。
「うおーーー!やっべえ!!!翔って双子だったの?めっちゃそっくり!前々から翔は優等生的な見た目の方が似合うと思ってたけどさ、こうやって見るとなんていうか……正反対双子やべえな、って」
金髪に「いくつ付けてんの?」と思うくらいのでっかい指輪を付けた…つまりはいかにもバンドマンの風貌をしたバンドメンバーが花宮の背後から大声で声を発した。
「…でもさ、俺に兄弟はいない筈なんだよ?」
「いやいや、どっからどう見ても双子だろ。これだけ似てるって普通じゃないぜ。何、ガチで生き別れた双子なの?冗談じゃなくて?つーか、誕生日も一緒だったじゃねえか」
金髪の男が声を発したのと同時に、他のバンドメンバー二人も一斉にガヤガヤと話し始めた。その勢いの凄まじさったら、俺が横やりを入れるタイミングが全くもって見つけられない程で。
想像を絶する以上のマシンガントークとテンションに、俺も多田もお互いに顔を見合わせながら困ったように苦笑いをすることしか出来なくて。
錯綜する会話の中で分かったことは、多田の両親も花宮の両親も離婚しているということ。そして、お互いがお互いの名前に朧げながらに記憶があるということだった。
「夢の中で作り上げたもう一人の自分なのかと思ってた」
そうポツンと告げた時の多田の驚愕した表情。もう作り物だとは思えない自然なその姿に、俺は嬉しいのか何なのかよく分からない気持ちに陥る。
「多田と花宮が双子なのでは?」という予感は嘘ではなくて、この二人が何かの事情で引き離された双子だっていうのは本当なんじゃないだろうか。
両親が離婚したからって、兄弟が離れ離れになってお互いの存在を知らせられないまま大人になるというのは、普通の感覚では考えられない。
異常な大人達の勝手な事情に振り回された哀れな双子。
今の俺には、その言葉しか浮かばなかった。
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