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仕事がオフの日は学園に来ている
だからと言って授業には出ない
ただ、来ているだけ
「楓知らないか?」
「楓様なら先程どこかへ行かれました」
「どーも」
今はもう動かない時計塔の最上階
俺はここが気に入っている
雑音が聞こえない静寂の空間
いつまで時を刻んでいたのかわからないおおきな歯車
「やっぱりここか」
「どうしたの?」
「授業にも出ないで何をしているんだ?」
「昼寝」
「はいはい」
葵がやって来た
と言うか葵しかこの場所を知らない
「撮影はどうだ?」
「ぼちぼち」
「少しは家で休んだらどうだ?今日も寝ていないんだろ?」
「そうだね、別に寝なくても死なないし」
「そういう事を言っているんじゃない!」
「怒らないの」
チョーカーの先に付いた十字架を指でなぞりながら微笑んだ
「何か用事?」
「そうだった!生徒会長様が捜していたぞ」
「人違い」
「いやいや、お前だ」
「生徒会長ね・・・生徒会室のソファーで昼寝したのがばれたのかな」
「おまっ!そんな事をしていたのか!」
「あのソファーはなかなか寝心地がいい」
「きっとそれだよ」
「じゃ、いいや」
「よくない!」
生徒会長ね
面識はないけど顔ぐらいは知っている
いつも取り巻きを引き連れて自信に満ち溢れた表情で前だけを向いて歩いている人
確かに有り余るお金を持っているわけだしああなるのもわかるけどね
「行くぞ」
「葵はいつから生徒会の犬になったの?」
「ばかかっ!犬はお前だろ、いつまでもそんな首輪を・・・ごめん」
「首輪ね・・・確かに」
「言い過ぎた、本当にごめん」
「いいよ、校内中捜したけど俺はいなかった・・・それで許してあげる」
「・・・・・わかった」
「うん」
葵の足音を聞きながら小窓から見える桜の木を見つめた
花はもう散り、葉っぱだけ残された美しかった桜
花は散るから美しいと言うけれど、俺は花が散った後の葉桜の方が美しいと思う
煙草に火をつけ、深く吸い込みため息のように煙を吐き出した
「首輪ね・・・」
俺は一生この首輪をつけて生きていくのかな
「きっと許してはくれないよね」
煙草の灰が床に落ちる
忘れたくても忘れられないあの日
ここが男子校だからとかじゃない
誰が誰を愛するかなんて高校生の俺達の特権みたいな感じがしていたあの日
俺は毎日忙しくて毎日イライラしていた
とりあえず性欲が満たされれば誰でもいい
そんな自堕落な生活
好きで始めたバンドのはずが、気付けば有名人
あれはまだデビューする前の話
生活も荒れていて眠る事すら忘れていた数年前
「楓・・・さん」
「・・・・・・・・・・」
「余り飲み過ぎない方が」
「うるさいよ」
「ごめんなさい」
彼は新メンバーの千裕
すぐに辞めてしまうドラムの新メンバー
俺達のバンドは秩序も無く好き勝手やり放題のバンドだった
遅刻なんて当たり前、統一性も無い
そんなバンドにいつも嫌気をさすのはドラムでメンバーも何度か変わっていた
それが当たり前のように感じていたのも確かだった
「楓さん、次のライブですけど」
「好きにしたら?そういうバンドなんだし」
「でも」
「嫌なら辞めればいい」
「噂どうりですね、普通ならとっくに辞めていますよ」
「・・・・・・・・・」
「でも、僕は貴方のギターが大好きだから」
「へぇ」
「一緒にバンドを組める事が嬉しくて仕方が無いんです」
「せっかくいい腕なのにその夢もすぐに壊れてしまうね」
「いえ、僕が辞めない限り壊れたりしない」
千裕はとても真っ直ぐな瞳で俺を見つめていた
黒いセミロングの髪、キリっとした口元
綺麗と言うよりは可愛い、そんな印象だった
彼のどこにそんな情熱が隠されていたのか
まともな会話はその時が初めてで、顔の割には根性が座っていると言う印象を受けた
「何があっても辞めないの?」
「辞めないです」
「じゃ、脱いで」
「・・・・・・・・」
少し意地悪をしてみたかった
別に辞めさせるつもりは無かった
ただ、困った顔を見たかっただけ
「知らないの?俺は男でもオッケーって事」
きっと逃げ出すね
この子は俺達のように汚れてはいない
「わかりました」
「・・・・・・・・・・」
でも違っていた
千裕は何の迷いも無く服を脱ぎ俺の前に座った
「何をされるのかわかっているの?」
「はい・・・でも僕楓さんが好きですから」
好きだとか愛してるだとかそんな言葉は聞き飽きた
絶対的な愛など存在しない事も
「好きという言葉の意味を軽々しく言うんだね」
「本当の事ですから」
「男としたことは?」
「無いです」
「キスは?」
「無いで・・・んっ」
俺の前に裸で座る千裕が捨てられた子犬みたいで構いたくなった
絡める舌はとてもぎこちなくて呼吸すらまともに出来なかった千裕
そっと唇を離すと、唾液の糸が蜘蛛の巣のように垂れていた
「ファーストキスが俺だなんて最悪だったね」
「いえ、嬉しいです」
皮肉のつもりだったのに、頬を染めた千裕は俯いて笑っていた
「変な子」
「はい」
それから千裕との関係が深くなるのには時間はかからなかった
きっと俺は真っ直ぐな瞳に惹かれたんだと思う
その澄んだ瞳に映る俺はとても清らかに見えた
こんなに汚れ切っている俺の唯一の救いだったのかも知れない
間もなくして俺達のデビューが決まった
嬉しいとかそういう感情は別に無かった
「楓、デビューしたら音楽で生活出来るよね?」
「どうかな」
「絶対出来る!とても素敵な事じゃない、好きな事で生きて行けるなんて」
「うん」
先の事なんて考えた事は無かった
でも、先の未来を千裕がほんの少し見せてくれたような気がした
デビュー三日前
俺だけ仕事が残っていた
今日は二人でお祝いをする約束だった
一緒に住む部屋も決まっていた
未来は明るいはずだと信じていた
あの時までは
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