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退院した後、俺は千裕のアパートに行きいつも千裕が身につけていたチョーカーを見つめた
忘れられる訳がない、この傷を見る度に千裕を思い出す
許さなくてもいい、全て俺のせい、俺が千裕の未来を奪ったんだ
強く握りしめたチョーカーを首につけ、アパートを出た
歩く度に揺れる十字架
重すぎる十字架
そして深夜一人でライブハウスに向かい、メールの送り主を殺した
5人全て殺した
あのナイフで同じように首を切りつけて殺した
もうどうでもよかった
殺したところで千裕はもう戻らない
でも、生かしておくわけには行かない
俺の大切な物を壊したかった、ただそれだけの理由だった
ちがう、それだけの理由が余りにも俺には重すぎたから
別に死刑になっても構わない
どうせ死ぬつもりだったしね
死んだ方が楽、俺は楽な道を選択したんだ
でも・・・神様は残酷だった
「楓!」
「・・・・・葵、何をしているの?」
「お前の行動ぐらい把握済みだ、誰かに見られたか?」
「誰も」
「よし、ナイフの指紋を拭きとってこいつに持たせろ」
「えっ?」
「そしてこれ」
「それって・・・」
「覚せい剤だ」
「葵まさか」
「今更こんなのにビビる歳じゃないだろ?これはさっき仕入れたものだ」
「どうするの?」
「こいつらは薬を乱用して殺し合った、いいな?」
「そんなのすぐにバレる」
「俺の父親はその筋の人間だ、警察にもいろいろと融通がきくんだよ」
そう言いながら、注射器を死体に刺し白い粉を床に落とした
「・・・・・・・・・・」
「バカみたいだろ?でもな、俺がここまでするのはお前とバンドを組みたいからだ、もう一度やろう、お前を失いたくは無いんだ」
「無理だよ」
「頼む、自分を傷付けるお前をもう見たくない、それに千裕の事だってそうだろ?お前は悪くない」
「・・・・・・・・・・」
「全てを忘れろとは言わない、だけどお前は才能があるから」
「俺の魂はどこへ行けばいいのかな」
千裕を殺してこいつらを殺して俺の魂は決して救われる事は無い
せめて雲のように漂う事が出来たらいいのに
「自分で探せばいい、だけど今は俺が命を預かる」
「葵」
「お前は来年俺と同じ高校に通う、そこで生き方を考えろ」
「高校?」
「ああ、試験は一応受けてもらうけどな」
「・・・・・・・・・・・」
また高校生に戻る
考えもしなかった事だった
「いいな?話はもうついている、悪いとは思ったけど最悪の事を考えていたから」
「と言う事は」
「ごめん、お前の父親に」
「へぇ、金だけは持ってるし面倒な事は避けたい人だしね」
「本当にごめん」
「いいよ、もういい」
俺に選択権など無い
もう葵を巻き込んでしまったんだ
「いいな、全て忘れろ・・・すぐには無理かも知れないけど忘れてくれ」
「こいつらの事はすぐに忘れる、でも千裕の事は」
「ああ、わかっている」
「うん」
俺の魂は千裕の物
天国にいる千裕が握っている
「お前はこのままマンションへ帰れ」
「うん」
「俺が連絡するまでは家から出るな、それから一番大切な事は」
「何?」
「絶対死ぬな、約束だ」
「・・・・・・・・・・」
「楓、お前にはお前の人生があるんだ、よく考えろ」
「帰る」
「わかった」
その夜、どうやって家まで帰ったのかも思い出せない
俺の人生?笑わせないで、そんなものなどありはしない
それから一週間経ったある日
葵がやって来た
「あいつらは仲間同士の殺人と言う事で片付けられたよ」
「そう」
「もともと薬を乱用していたと言う証言もあったしな」
「証言ね」
どうせ葵が仕込んだんだろう
「それでだ!」
「何?」
「これは新しい制服とその他いろいろ」
「本気だったの?」
「当たり前だ!俺のおやじは多額の寄付金を収めているからそう言う物は悪用させてもらった」
「と言うか、バンドなんか諦めて極道になった方が合ってるんじゃない?」
「冗談だろ?」
「別にいいけど」
「お前、千裕の葬儀に・・・」
「行けるわけないでしょ?憎まれているのに」
「・・・・・そうか」
「だからお墓の場所も知らない」
「行きたいのか?」
「どうかな・・・俺の片思いみたいだし」
「楓・・・」
「用はそれだけ?」
「いや、今から学園で試験を」
「そう」
「名前だけ書けばいいよ」
「うん」
「お前、そのチョーカー」
「形見にね、こっそりもらった」
「そうか」
「涙ってさ」
「ん?」
「どれだけ泣いても止まらないんだね・・・どこにそんな食塩水が隠れているんだろうね」
「大丈夫か?」
「何とかね」
「じゃ、行くか・・・外に出ていないんだろ?」
「そうだね」
一週間ぶりに光の中を歩いた
太陽は眩しくて、風も穏やかに吹いていた
緑の木々は美しく、雲はゆっくり流れていた
これが生きている人間の世界なんだね
「車で行くぞ」
「うん」
葵の家は代々名のある極道家族
本来なら葵が後を継ぐべきなんだろうけど、その気はないらしい
そう言えば葵と知り合ったのはいつだっけ
あれは小学生だった
葵はみんなに無視されていた
家が極道と言うだけでいつも一人で暗い瞳をしていた
そんな瞳が気に入った俺は葵に話しかけたのが最初の出会いだった
「学校が好きなの?」
「・・・・・・・・」
「耳が聞こえない?」
「俺と話をするとお前も無視されるぞ」
「だから?」
「えっ?」
「そんなの関係ないし、質問に答えて」
「学校は仕方なくだ、家のせいで学校に行かないと親の仕事を否定する事になる」
「大人だね」
「もういいだろ?」
「俺は楓、貴方は?」
「葵」
「葵、仲良くしてね」
「ダメだ」
「いいの、俺はね親友は一人でいいと決めているから」
「親友?」
「俺達の事」
「何を言っているんだ?」
「きっと俺達は親友になる、俺には未来が見えるから」
「変な奴」
初めて笑った葵
俺も一緒に笑っていた
一人なら出来ない事も二人なら出来る
葵を無視していた奴らもいつしか俺達の犬になっていた
人間なんてそんなもの
逆らえない人間には服従をする、それが賢い生き方
それから中学になり俺と葵は音楽に熱中した
ほとんど学校にも行かず、ライブハウスをはしごする毎日
そして同時に出た言葉・・・バンドを組もう
でも、社会の常識を知らない俺達は喧嘩も多かった
集めたメンバーとの喧嘩もね
そして千裕が加入してまともなバンドになった
デビューも目前だった
「着いたぞ」
「うん」
「ここは全寮制の高校なんだ」
「全寮制?」
「何かと融通も利く」
「うん」
「仕事を優先出来る学園なんだ」
「へぇ」
「俺はお前とバンドを再結成する、必ずな」
「まだ諦めていないの?」
「当たり前だ!」
都会とはかけ離れた緑に囲まれた学園
門は頑丈に出来ていて道の両脇にバラが咲いていた
「ベルサイユ宮殿?」
「近いかもな、もう少し歩くぞ」
「うん」
しばらく歩くと大きな噴水が水しぶきをあげていた
池の中で踊る青葉
浮いたり沈んだり回ったり
「こっちへ行くと寮だ」
「うん」
中庭は綺麗な芝生が青々としていた
相変わらずバラだらけ
ベンチも宮殿にありそうなゴシック調
ベンチなのにね・・・
白い校舎が見えて来た
階段を上り、見えて来たのは時計塔
やはり校舎もベルサイユ宮殿?
テラスにはパラソル
中庭には白い鳩
何だか不思議な空間だった
出迎えてくれたのは髪の綺麗な人
それぐらいしか覚えていない
案内されるがまま教室に向かい、試験を受けた
問題は簡単に解けた
もともと俺も葵も小中と成績はトップクラスだしね
静かな教室
ゆれるカーテン
窓の外から聞こえる小鳥のさえずり
午前中に試験は終わり、俺達は空気の汚染された都会に戻った
それからまた一週間後、俺はまたあの学園に向かった
そう、編入生としてね
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