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「はぁ・・・」
「いきなり何だよ?いい曲が出来たのに」
「それが問題」
「ん?」
「約束をね」
「約束?」
「仕事が終わったから今日は生徒会に顔を出す約束」
「お前らしくもない、行かなければいいだろ?」
「そうしたいよ・・・本当に」
曲が完成して仕事が終わった
でも気が重すぎる
朝も繭に言われたしね
忘れていなかったんだ
「楓、今夜知り合いのライブがあるんだけどさ」
「ライブ?」
「どうしても来て欲しいってチケが送られて来た」
「でも」
「可愛い後輩だし、行くべきじゃないのか?今なら間に合うし」
「うん・・・ん・・・」
どうしょう
「行くぞ!今から着替えて急げば間に合う」
「わかった」
約束をしたからと言ってさすがに酷い事はしないと思った
たまには息抜きがしたかったのも事実
俺達は午後の授業をサボって久しぶりに眠らない街へ向かった
この澱んだ空気は変わらない
大声で笑う人達、色とりどりの看板やネオン
「なかなかよかったな」
「そうだね」
「でも、袖からしか見れなかったのは残念だ」
「バレたから仕方が無い」
「だな」
都会に来ると忘れていた事を思い出させる
俺達は普通の人間では無い事を
広告塔には俺達のポスターが貼られ、街を歩けば俺達の曲が流れていた
「どうする?」
「視線が鬱陶しいから帰ろう」
「だな」
本当は地下のバーで酒を飲みたかったし、ギターも見たかった
でも、どこへ行ってもすぐ囲まれて息が詰まりそうだった
「あっ、待って」
「どうした?」
「ここのパン、有名でしょ?」
「お前がパン?」
「待ってて」
「ああ」
俺はたくさんのパンを買い店を出た
「お前が食べるのか?」
「ハムスターかな」
「はい?」
「最終に間に合わない」
「走るぞ」
久しぶりの街だったけど、居心地が悪かった
昔はここで朝まで騒いでいたのにね
今は静かな学園が恋しいなんて
電車の窓をぼんやり見つめる
華やかなネオンが次第に消えて街の明かりがぽつぽつと見える
そしてどんどん夜の闇に飲み込まれ、明かりは外灯しか見えなくなった
当然バスは無く、タクシーを呼び40分待たされた
それほどここは山の中だから
学園に着いたのは深夜だった
当然門は閉まっているから裏から寮に向かい葵と別れた
この時間なら繭も寝ているはず
ドアを開けて部屋に入った瞬間
「えっ?」
俺の頬をナイフがかすめて壁に突き刺さった
「繭・・・」
「約束」
「ごめんね」
驚いたのはナイフが飛んで来る事では無く、投げる正確さ
佇む俺をめがけて飛んで来るナイフ
それもスレスレにね
「約束」
「ごめん、急な用事が入ったから」
「指切りした」
「そうだね、本当にごめんね」
壁に突き刺さっているナイフは5本
そして最後の一本は俺のギターに突き刺さった
葵にもらったギターではなく千裕にもらったギターだった
「嫌い」
ギターを壊された事は今はどうでもいい
でも心が痛んだのは嫌いと言う言葉だった
「繭・・・俺は好きだよ」
「嫌い」
冷たい表情の繭
誰も寄せ付けないようなとても冷たい瞳
「二度と約束は破らないから・・・本当に」
「・・・・・・・・・」
「だから指切りしよう」
「・・・・・・・・」
「もう約束はやぶらない指切り」
「二度と?」
「うん、二度と」
「わかった」
そして俺達は二度目の指切りをした
とても大切な意味を持つ指切りを
「繭、パンをね」
「食べる」
「うん、お茶を入れるね」
パンの袋を繭に渡し、紅茶を淹れた
「おいしい?」
頷く繭
手がべたべた
よかった、いつもの繭だ
「ごちそうさまでした」
「うん」
綺麗なハンカチで手を拭い、紅茶を飲んだ繭
あの激しさはどこから?
「壁に傷がついたね」
「ステッカーを貼ればいい」
「何の?」
「楓の」
「それは嫌かも」
「じゃ、パンの切り抜き」
「賛成」
そんな会話をしながら笑った
部屋の壁には美味しそうなパンの切り抜き
「眠いでしょ?」
「寝る」
「うん、おやすみ」
「楓」
「何?」
「部活は?」
「部活は入らないよ、仕事が入ると迷惑がかかるしね」
「楓らしい」
「そうかな」
「そんな事思ってもいないくせに」
「クスッ」
そしてすぐに寝息が聞こえて来た
何だろう、本当に食べたらすぐ寝るんだ・・・
それが可笑しくて壊れたギターを見つめて苦笑した
壊れて正解だったかもね
触りもしないギターなんだから
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