アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-
今日は退屈な日だった
気紛れな雨のせいで昼寝も出来なかったしね
「雨に対抗」
湿度の高い日は演奏に向かない
音が重く感じるし何より湿気を楽器は嫌う
音楽室に向かう途中、ピアノの音色が聞こえた
俺以外にも対抗している奴がいるみたい
そっとドアを開けて中を覗いた
ピアノを弾いていたのは翔だった
どこか悲し気なショパンはどんより曇った日には最高の曲
そっと近付いて鍵盤に触れた
翔は少しだけ微笑んでピアノを弾き続けた
雨の音がよく似合う曲を二人で奏でた
「意外だね」
「お互い様でしょ?」
「でもバンドやってるんだし弾けるよね」
「弾けるのはこの曲だけ」
「そうなの?」
「うん」
「もしかして思い出の曲?」
「内緒」
「内緒ね、でもこの曲にはまだ続きがあるんだよ」
「うん」
「俺は弾けないけどね」
「じゃ、俺が弾こうか」
「お願い」
「うん」
俺はこの曲を最後まで知っている
千裕が好きだったから聴かせる為に練習した
でも、聴かせる前に消えた
「楓」
「何?」
「涙が」
「おかしいな・・・俺の上には雨雲があるのかも」
「そっか」
翔は黙って隣で聴いていた
止めようともせずにただ黙って
「いい曲だね」
「うん」
「楓が弾いたからそう聞えたんだと思う」
「どういう意味?」
「だってこの曲はそう言う曲だから」
「成程」
「もう一度弾こう」
「うん」
俺達は雨の音を聞きながらピアノを弾いた
やはり翔の体からあの香りが漂っていた
「繭もね」
「うん」
「ピアノが得意なんだ」
「そう」
「でも手が小さいでしょ?」
「うん」
「かなり努力したと思う、あいつはそう言う子だから」
「そうだね」
「繭の激しさや我儘を最初は驚いたでしょ?」
「嫌いではないよ」
「俺はね、素直なんだと思うんだ・・・人間は大人になると感情を押さえつけてしまうから」
「そうかもね」
「繭は感情を素直に出しているだけ、隠さずにね・・・動物で例えるならハリネズミかな」
「何となく言いたい事はわかるよ」
「針を立てられずに頭を撫でられたら認めるよ」
「まだ無理かな」
「俺も無理、仕方ないけどね」
「うん」
ハリネズミか
確かに繭の体には見えない針がとがっていた
誰も寄せ付けないようにね
たまに触れる指、静かな吐息
こんな時間を過ごすのもたまにはいい
「繭、楓知らないか?」
「・・・・・・・・」
「ん?」
「中に翔といます」
「じゃ、行こう・・・繭君?」
「はい」
音楽室の扉が開いた
この開け方は葵
「二人で連弾か?」
「そうだね」
「繭と来たの?」
「ああ・・・そうだけど」
「珍しいね」
繭は少し驚いたような表情を見せた
でも、気にする程ではなさそう
「繭、弾いてよ」
「同じ曲?」
「好きな曲」
翔の言葉に首を傾げる
そして大きな瞳で俺を見つめた
「楓は何が聴きたい?」
「俺?」
「うん」
「クラシックは詳しくないんだけど・・・」
「何でもいい」
「じゃ、幻想即興曲がいいかな」
「わかった」
あっ、悪い事を言ったかな
小さな手では少し弾きにくい曲を選んでしまった
でも、完璧に弾きこなした
すごいな
「さすが~」
「翔も弾ける」
「俺より繭の方が上手いよ」
「・・・・・・・・・・」
「繭、音楽は上手い下手じゃないと思うよ、好きならそれで相手には伝わる」
「そう言う事だな、天才ギタリストが言うんだから間違いない!」
「楓」
「ん?」
「帰る」
「生徒会は?」
「今日は無い」
「わかった、じゃ帰ろうか」
「待て!俺はお前に用事があって来たんだ、忘れるところだった」
「何?」
「ライブの練習予定だけど変更無しでいいか?」
「いいよ」
「わかった、セットリストは?」
「大体出来た」
「今あるか?」
「これかな」
ノートを葵に渡して反応を見た
「オッケー、これで行こう」
「うん」
「じゃ、細かい打ち合わせは来週な」
「わかった」
話が終わり、ふと翔に目をやった
何だろう、さっきとは違う寂しそうな瞳
窓を伝う雨の雫を目で追っていた
「翔も帰る?」
「俺はまだいいや」
「そう」
「俺は今からバスケの試合があるからこれで」
「うん」
「帰ろう」
繭と手を繋ぎ、廊下を歩いた
翔はまだピアノを弾くのかな?
「葵が走ってる」
「滑らなければいいけど」
「危ない」
「えっ?」
本当に転ぶとは思わなかった
何だかすごく痛そう
急いで渡り廊下に向かい、葵に声をかけた
「葵!」
「いって・・・やっべ、足をひねった」
「手は?」
「手を庇ったから足をひねったんだけど・・・困ったな、大切な試合なのに俺のバカ!」
「葵、保健室に」
「いや、試合に」
「歩けないのに?」
「・・・っ」
俺がバスケが上手かったらよかった
俺の才能はギターだけなのが悔しい
「楓、試合に勝って欲しい?」
「うん、でも葵は出れないから」
「勝って欲しいんだね?」
「うん」
まさか・・・
「葵、僕が出る」
「えっ?」
「僕が出る」
「いいのか?」
「うん」
「ありがとう、感謝する」
「葵は俺に掴まって」
「ああ、体育館へ」
「うん」
葵は繭にユニフォームを渡しベンチに腰かけた
この試合、勝つに決まってる
相手は繭を甘く見過ぎているね
ユニフォームが大きくて何だか可愛い
「葵、少しだけ抜けるね」
「どした?」
「勝ちそうだから繭にプレゼントをね」
「勝ちそうと言うか、勝つだろ?圧勝だし」
「だね」
俺は購買に向かい、繭の好きそうなパンをたくさん買った
きっとこれが一番嬉しいはず
試合は圧勝して葵はすぐ病院へ向かった
捻挫らしいけど念の為ってやつ
そして俺は・・・
「お疲れ様、はい食べて」
「パン!」
「うん、疲れたでしょ?」
「楓が嬉しいならそれでいい」
「ありがとう」
繭は頷き、パンを食べていた
もしかして俺の為?
それだけの為に繭は試合に出てくれたのかな?
まさかね・・・
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 169