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楓の退院が決まった
俺は楓がどこに向かうのか知っていた
あいつの頭の中には復讐しか無いはず
最悪の事を考え、覚せい剤と注射器をポケットに入れた
向かった場所は小さなライブハウス
ここで今夜あいつらのライブがあった
裏口から入ろうとした時、悲鳴が聞こえた
遅かった・・・それだけだった
真っ赤に染まった楓の瞳は何も見えていなかった
床に転がる死体と生臭い血の匂い
楓は死ぬつもりだと直感した
「楓!」
「葵・・・どうして」
絶望した瞳を見るのは二度目
一度目はイオ
そして楓
このまま警察に連絡すれば俺達の生活は幸せだったはず
だけど楓をこのままには出来ない
その為に俺が来たんだ
握りしめていたナイフの指紋を拭きとらせ、死後硬直が始まる前に転がる死体に持たせた
こいつらは薬で幻覚を見て殺し合った
筋書なんかいくらでも捏造出来る
ポケットから覚せい剤を取り出し全員の腕に打った
残りは床にばらまいた
ざっと10万分の白い粉
無表情の楓に言い聞かせるように説明したけど反応は無かった
どうしたらいい
楓をどうしたら
俺は咄嗟にバンドの話をした
どうしてなのかはわからない
でも、楓は微かに反応した
もう一度バンドを組みたいのは俺も同じ
その想いを伝えるしかなかった
でもそれだけでは不十分
楓はこの街に居てはいけない
だから高校へ行く手続きも楓の父親に済ませてもらっていた
こんな事件が起こらなくても楓はその学園に通わせるつもりだったから
でも俺はその為に大切な物を失わなければいけなかった
恋人と親友を天秤にはかけられない
でも俺の天秤は親友の方が重かった
「葵、お帰り」
「ただいま」
「今日は美味しそうなお刺身があったから奮発しちゃった」
「うん」
イオは話すのはまだ早い
こんなに幸せそうなイオを泣かせたくはない
「元気がないね」
「俺、刺身苦手」
「嘘!知らなかった・・・じゃ煮付けに」
「もったいないだろ?食べるよ」
「でも」
「いいから」
「ごめんね」
「嫌いじゃないし大丈夫」
「うん」
暖かい食卓
楽しい会話
穏やかに時を刻む時計
「思い出した、電話があったよ」
「誰から?」
「葵のお父さん」
「そっか」
「全部終わったと伝えて欲しいって」
「うん」
「何の話?」
「いろいろあるんだよ、俺の家は普通じゃないから」
「ごめん・・・」
「食べよう」
「うん」
全て終わった
その言葉の意味はあの事件が闇に葬られたと言う事
おやじとの約束で俺は高校にまた行く約束をした
楓と一緒にね
「イオはさ」
「うん」
「高校とか行きたくないの?」
「う~ん・・・お金かかるし」
「それは俺が」
「甘えたくないんだ、これ以上は」
「そっか」
「葵とは同等でいたいから・・・とは言っても家賃はまだ払えないけど」
「そんなのはいいよ、俺が頼んで来てもらったんだし」
「でもね、俺にもプライドがある事に気付いたしさ」
「そっか」
来週にはここを出なければいけない
イオが着いて来てくれると言うのなら一緒に連れて行きたかった
でも、イオは断るだろう
俺はいつも通りに過ごし、最後の夜にあの水族館へ誘った
「今日はデートだね」
「だな」
「ホントに綺麗・・・でももう海の中で暮らしたいとは思わない」
「うん」
「夜景が見える場所があるんだ、行こうよ」
「そうだな」
俺はイオにどうやって話をすればいい?
どうすればいい・・・?
ビルの屋上から見える夜景を見つめながら考えていた
「葵、何か隠してるでしょ?」
「えっ?」
夜景を観ながら言われた言葉に驚きを隠せなかった
「やっぱりね」
「イオ・・・俺」
「どうしたの?まさか、浮気?」
「違うよ」
「じゃ、何?」
頭がガンガンする
心臓がドキドキする
暑くも無いのに汗が流れ落ちる
「明日、街を出る」
イオはよろめきながら壁にもたれ震える声で言った
「何を言ってるのかわからない」
「楓と高校へ通う」
「俺より楓をとるの?高校って何?青春ごっこでもしたいわけ?」
「そうじゃない、楓を立ち直らせたいんだ・・・そしてもう一度バンドを組む」
「そんなの・・・いつの話だよ・・・」
「約束する、だから待っていて欲しい」
「何それ・・・」
「本当はイオも連れて行きたい、だけどお前は」
「そうだね、そこまでしてもらいたくはない」
「イオ、お願いだから一緒に」
「行かない・・・無理」
何を言っても無駄だろう
イオの顔は青ざめ、表情は冷たかった
「別れるとかじゃない、俺は別れたくはない」
「勝手すぎでしょ?」
「イオ」
背中を向けたまま何も言わないイオをただ見つめるしかなかった
「わかった」
「えっ?」
「明日送るよ」
「イオ」
それだけ言って歩き出した
最後の夜、イオはソファーで本を読んでいた
朝になり、駅に向かう俺達
イオは何も話さなかった
ホームで電車を待ちながら俺は最後の賭けをした
「イオ、必ず毎日連絡する」
「・・・・・・・・・」
「家はイオが住んでいてくれ、お願いだから」
「・・・・・・・・・・・」
「絶対バンドを組もう、それまで待っていて欲しい」
「電車が来たよ」
「イオ」
仕方なく電車に乗ろうとした時、腕を掴まれた
「葵、行かないで・・・お願い、離れたくない」
泣きながら俺に抱き着いたイオ
俺は意味のない会話ではぐらかし、背を向けた
「さようなら、葵」
「イオ」
「お別れだね、楽しかった」
「違う、俺は!」
そんな二人の事を無視するかのように扉がしまり電車は動き出した
俺は最低だ
本当に最低な男だ
その後、イオは半年だけ俺の部屋に住み、引っ越した
楓を説得してバンドを再結成するためにイオに連絡をした
イオは返事だけして電話を切った
会うのは練習や仕事の時だけ
会話も無かった
それでも夢は叶えられた
イオはもうお金に苦しむ事は無い
そう・・・
何も不安な事などないんだ
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