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今日から仕事の為寮を離れる日
繭はベッドに座り、俺を見ていた
「楓、いつ戻るの?」
「来週かな」
「来週」
「ライブも近いしね」
「僕、行く」
「えっ?」
「行く」
「わかった、チケを送るよ」
「うん」
「じゃね」
「うん」
ギターを持ち、部屋を出た
玄関で待っていた葵と駅に向かい、バスに乗った
「久しぶりにみんなと会うな」
「そうだね」
「楓は俺の家に来いよ」
「でも」
「誰もいないしさ」
「華は?」
「フラれた」
「えっ?」
「お前のせいとかじゃないからな」
「・・・・・・・・・・」
「昨日電話で話したんだけどさ、彼氏が出来たってさ」
「そう」
葵と華が付き合っていた事は知っていた
葵から話が出ないから俺も何も言わなかった
「華の人生を狂わせたのは俺だね」
「そうじゃない!どうしてそうやって考えるんだ?」
「俺は千裕が死んだ後の華を知らない・・・何も」
「もう終わった事だ、着いたぞ」
「うん」
バスを降りて電車に乗り、緑の景色を見つめていた
華はあの後、どうやって生活をしていたんだろう
デビューがダメになり、連絡も途絶えた
俺はずっと入院していて知ろうともしなかった
でも、葵の待ち受けは華との写真
それが全てを物語っていた
「何だか曇ってるな」
「晴れてるのに?」
「空気の事」
「うん、そうだね」
景色が華やかになり、人も増えた
「スタジオにこのまま行くのか?」
「うん」
「オッケー」
タクシーに乗り、いつものスタジオに向かった
「楓ー!元気だった?」
「うん、湊は?」
「元気元気!冴も来てるよ」
「そう」
新しいメンバーはみんないい奴だった
「生きてるか?」
「何とかね」
「ギター変えたのか?」
「色々あって」
「クソ高いギターだろそれ」
「だね」
「でも、元気そうでよかった」
「冴もね」
そして華がやって来た
「お待たせ」
寝ていない顔だね
すごくやつれている
「顔色が悪いね」
「大丈夫」
「そう」
葵から話しかける事はない
もちろん華からも
特に今日はお互いよそよそしい
今までなら会話も多少はしていたはずなのにね
「じゃ、始めようか」
「ああ」
この空気は好き
張り詰めた空気
でも・・・
「ごめん」
「もう一度」
「うん」
華の調子は悪かった
「あっ・・・」
今日は無理かな
そう思った瞬間
「お前、いい加減にしろよ!」
「葵、華は体調が悪いから」
「今日練習だと言う事は知っていただろ?お前、ふざけてるのか?」
「・・・・・・・・・・」
「俺達はプロなんだ、遊びでやってるわけじゃない」
「わかってるよ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて」
「湊だって高校に行きながらこうして来ている、冴も同じだ」
「悪かったね、高校に行ってなくて」
「イオ」
「高校に行ける人はいいよね、ホントお気楽」
「それは言い過ぎじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
「あのさ、華」
「楓も文句?」
「違うよ、高校に行ける人って言ったよね」
「言ったよ」
「華は高校へ行きたくないの?」
「俺は・・・」
「お金ならあるでしょ?」
「でも今更入れるところなんかないし」
「あるじゃない」
「えっ?」
「俺達の高校は名前だけ書けば入学出来るらしいよ」
「嫌だ」
「そう、離れたくない人でもいるのかな?」
「それは・・・いる」
「恋人?」
「そうだよ」
「じゃ、そのブレスは恋人のプレゼント?」
「これは・・・」
華は葵からもらったブレスをまだつけていた
恋人がいると言うのも嘘だと思った
「ごめん、今日は帰らせて」
「わかった、明日までに体調を治してね」
「うん」
「じゃ、そう言う事だから今日は解散ね」
「はーい!」
「仕方ないな」
華は無言でスタジオを出て行った
「葵」
「何だよ」
「行くよ」
「どこに?」
「いいから」
「わかったから!」
俺達は華の後をつけた
「お前、嫌がらせか?」
「葵はどう思う?」
「何が?」
「恋人に会いに行くよね、普通は」
「お前・・・」
「知りたいじゃない、華の恋人」
「俺は知りたくない」
「行くよ」
華が向かったところは水族館
平日の水族館は空いていた
「ここは・・・」
「華は魚が好きなんだね」
「・・・・・・・・・」
「それとも思い出の場所なのかな?」
しばらく水槽を見ていた華が向かったのはビルの屋上だった
「夜景を観るにはまだ早いね」
「・・・・・・・・」
「人間てさ、強がってつく嘘もあるよね」
「えっ?」
「構って欲しいからつい言ってしまう言葉もあるんじゃない?」
「・・・・・・・・・・」
「本音を言えないから言葉の裏側を言ってしまう」
「裏側?」
「さようならではなく待っている、恋人がいるのではなく恋人は作らない」
「じゃ、高校は?」
「今更行きたいなんて言えないでしょ?そこは誰かの力が必要、強引に行かないと」
「楓、俺」
「俺も行きたいところがあるからまた明日」
「ありがとう」
「親友でしょ?」
「だな!」
葵が華に話しかけ、しばらく言い合いをしていた
でも、葵が抱きしめて喧嘩は終わった
恋は厄介だね
素直にもなれるし意地悪にもなれる
強くもなれるし、弱くもなれる
「俺にはわからないかな」
その足で千裕のアパートに向かい、窓を見つめた
今は違う人が住んでいる部屋
カーテンの色も変わり、窓辺には花が置かれていた
時間は止まらない
止まっているのは俺の心
あの日のまま、歯車は動かない
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