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部屋に戻り窓を少しだけ開いた
繭は眠っていた
煙草に火をつけてぼんやり月を眺めながら翔の話を思い出していた
「ゲホッ」
「あっ、ごめんね」
慌てて煙草を揉み消し窓を開けた
「禁煙」
「ごめん、起こしちゃったね」
「翔と何を話したの?」
「えっ?」
「翔と何を話したの?」
確かに二回同じ事を尋ねる繭
「眠れないから噴水にいたら翔が帰って来たんだよ」
待って
繭は眠っていなかった?
「どうして翔と居た事を知ってるの?」
「足音、翔の足音と楓の足音がした」
「すごいね」
「その前に和海の足音がしたから、目が覚めた」
「和海の?」
「翔の帰りを待っていた」
「そう」
繭は体を起こし、俺を見つめた
眠れないのかな?
「ねぇ繭」
「うん」
「ごんぎつねの話知ってる?」
「ごんぎつね・・・」
「翔がそんな事を言っていたから」
「翔が言ったの?」
「うん」
「これは夢、だから朝になったら忘れて」
「えっ?」
「約束」
約束・・・
差し出された小指を見つめ、そっと握りしめた
「わかった、忘れる」
「ごんきつねはとてもいたずら好きなきつねでした」
繭も物語調で語りだした
「いつもいたずらばかりして気ままに暮らしてしました」
「ある日、よく見かける村の人間が川で魚を取っていました、ごんはしばらくその人間を見つめいたずらをしてやろうと思いました」
「そして人間が目を離した隙に、大きなウナギを盗みました」
「うん」
「人間はゴンに気付き追いかけて来ます、でもごんは軽やかに走り自分の巣穴で大きなウナギを食べました、そんなある日人間がたくさん歩いていました、ごんがウナギをぬすんだ人間の家に向かっていました」
「ごんは藁にかくれながら様子を伺っていると、話し声が聞こえてきました」
「どうやら死んだのはウナギをぬすんだ人間の奥さんで、死ぬまでウナギが食べたいと言って死んで逝ったと言う話でした」
「ごんはあの時ウナギを盗まなければ・・・と後悔しました、独りぼっちになった人間への罪滅ぼしの為に、ごんは毎日山で栗やまつたけを持ってその人間の家の前に置きました、毎日毎日」
「そんなある日の事、いつものように栗を持って人間の家に行ったごんは見つかってしまいました、その人間はウナギを盗んだきつねだとすぐに気付き、銃できつねを撃ち殺しました・・・そのきつねの亡骸の周りには栗がたくさん落ちていました、人間は神様の仕業だと思い込んでいたけれど、神様ではなくいたずらをされたきつねだと言う事に気付き呆然と立ち尽くすのでした」
「今のがごんぎつね?」
「僕が知っているのはそう」
「どうして翔はごんきつねなんだろう・・・」
「翔はすごくいたずらが好き」
「うん」
「いつもいろんないたずらを考えて和海達を怒らせていた、僕の父親も」
「繭の父親」
「母親は病気がちでいつも部屋で眠っていた、そんな母親がある日木苺が食べたいと言った」
「木苺」
「和海と冬矢は山へ行き、夕方たくさんの木苺を持って戻って来た」
「うん」
「翔は意地悪な和海が大切そうに抱えている木苺を全部川に捨てた、どうして木苺を採りに行ったのか理由を知らなかったから」
「それで?」
「母親の容体が急変して次の日の朝亡くなった・・・木苺が食べたいと言って」
「・・・・・・・・・」
「その事を知ったのは葬式の日だった、僕が翔に話したから・・・その時の翔の顔は今でも覚えている、すごく悲しそうな辛そうな、そんな顔だった」
「うん」
「父親は落胆して毎日部屋に閉じこもっていた、翔は母親が好きだった百合の花を毎日探して窓辺に置いた」
「毎日?」
「そう、毎日」
「そう」
「異変に気付いた父親はきっと母親が天国からの贈り物だと信じるようになった、翔もいたずらをしなくなった」
「うん」
「ある日、翔はいつものように百合の花を一本持ち窓辺へ近づいた・・・そして父親に見つかり部屋に連れ込まれて散々弄ばれた・・・僕の父親に」
「木苺だけで?」
「それもあるけど、きっともう狂っていたのかも知れない・・・」
「・・・・・・・・・・」
「父親は死んだように横たわる翔を見つめ、窓を開けた・・・そして窓の下に落ちていた百合を見つけた」
「救われないね」
「次の日翔は屋敷を出て家に戻った、僕は毎年夏休みに翔の屋敷に行く事にした・・・中学になって翔からその話を聞いた」
「繭はどう思っているの?」
「翔が可哀想、僕にとって両親などどうでもいい・・・大人が無抵抗な子供の体を弄ぶ事は許せない、僕の父親は翔から心を奪い傷まで残した」
「うん」
「だから僕はその父親から全てを奪おうと決めた、それは翔との約束、その約束があるから翔は今の翔でいられる」
「ごめんね、この話は今忘れるよ」
「うん」
余りにもやるせない
無抵抗な子供を・・・
「その約束をしてから翔も賢くなった、僕の父親を毎年誘惑してあざ笑っている」
「危ないんじゃない?」
「僕がいる、僕の父親は翔に夢中・・・親子そろってまぬけ」
「もう寝よう」
「うん」
「眠れそう?」
「楓と寝る」
「平気なの?」
「平気」
「わかった、おいで」
繭はベッドに潜り込み、体を丸めて眠った
世の中は平和ボケする人間が多いのに、この子達の今まで生きて来た人生は壮絶なんだと知った
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