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午後の授業は自主休校
体育だし、サッカーとか絶対無理
いつものベンチに寝転がりざわめく木々を見つめていた
ここは昼寝に丁度いい
「このピアノは」
音楽室から聴こえて来るのは華のピアノ
間違いない、華の癖が出ている
「いい感じ」
華は音楽科だから葵とは離れてしまうけど、大丈夫そうだね
午後の一時、贅沢な時間が流れる
「ん?」
翔だ
一人でどこへ行くんだろう
体育は見学?それとも怪我?
そっと起き上がり、翔の後をつけた
俺もストーカーみたいだけどね
翔はそのまま温室に向かった
確かこの温室は翔が管理していると言っていた
足を止め、しばらく悩んだ
この中に入ってもいいのだろうか?
秘密の香りが立ち込める空間
眩暈がしそうな花の香り
「楓でしょ?どうぞ」
思い切りバレてたらしい
「ごめんね」
「気にしないで、適当に座って」
「うん」
花に囲まれたテーブルとイス
何だか小人になった気分
「お茶を入れるね」
「ありがとう」
しばらく待っているとガラスのポットとカップを持って戻って来た
「ハーブティーだけど」
「いい香り」
「俺が育てたんだ」
「そう・・・」
腕から血が流れていた
手首を伝い、床に広がる
「楓の知りたい事はこれだろ?」
そう言ってシャツをまくり腕の傷を見せた
「さっきボールが当たってさ」
「俺がやるよ」
「ありがとう」
傷が深いのか、なかなか血が止まらない
しばらく止血の為にハンカチで傷を押さえつけた
「当たり方が悪かったみたいでさ、傷がえぐられた」
「ごめん、シャツを脱いで」
「・・・・・・・・・」
「腕を縛らないと止血出来そうに無い」
「確かにこんなシャツを着たままではいられないね」
翔は血だらけのシャツを脱ぎ捨て、椅子に腰かけた
体に無数の傷痕、そして背中には羽のような火傷の痕
「この傷は昔の傷だよ、俺結構やんちゃだったから」
「そう」
これは明らかに故意につけられた傷
でもこれ以上知る必要はない
腕の傷は十字架のような傷だった
和海が言っていた傷はこれの事?
漸く血が止まり、黙ったまま包帯を巻いて背中を向けた
「ありがとう、助かった」
「ううん」
新しいシャツを着てお茶を飲む翔
顔には傷一つ付いていない
「昨日、大丈夫だった?和海が待っていたんでしょ?」
「大丈夫、俺には番犬が居るって言ったでしょ?」
「その番犬って・・・」
「冬矢じゃないよ、あいつは和海には何も出来ないしね」
「そう」
誰の事だろう
黙ってお茶を飲みながら蘭の花を見つめた
「紹介するよ」
「えっ?」
驚いた
気配すら感じなかったけど後ろに誰かが立っていた
「彼は氷龍、裏で日本を動かしている人の息子」
「はじめまして」
「彼は楓、説明は面倒臭いからいいよね」
「ああ」
こんな人がいたんだ
でも、日本を動かすって?
「俺は政治とか興味は無いけどさ、表に出ている政治家を裏で操っている人もいるんだよね」
「俺も興味はないかな」
「まぁ、それだけの話なんだけどね・・・結構怖い奴だね」
「ちなみに、動物に例えると?」
「あはっ、さすが楓!質問が面白い・・・ハイエナだよ」
「ハイエナ」
「骨まで噛み砕くハイエナ、横取りが大好き」
「そんな感じだね」
「とにかく、仲良くしてね」
「うん」
「怪我をしたのか?」
「ボールが当たっただけ、大丈夫」
「そうか」
「そして番犬の出番かな」
「えっ?」
氷龍は入り口に向かい、しばらく戻って来なかった
温室のガラスの外には和海がいた
じっと中を見つめて立ち去った
「追い払えたみたいだね」
「当然だろ」
へぇ
あの和海と対等に接する事が出来るんだ
「でも強がりはよくないね」
「・・・・・・・・・」
「和海も怪我をしたみたいだし今回は引き分けって所かな」
「すまない」
「腕を見せて」
「ああ」
怪我をしていたの?
全く気付かなかった
でも驚いたのはそんな事では無かった
「同じ傷」
「これはね、俺達の誓いの証みたいなもの」
「激しい誓いだね」
「俺が氷龍につけて氷龍が俺につけた刻印みたいなもの」
「立ち入った事を聞いても?」
「どうぞ」
「二人はいつ知り合ったの?」
「俺が中学の時かな・・・いや、もっと前か」
「翔が小学生の時だ」
「そうだった、確か和海の家のパーティーで知り合ったんだよね」
「ああ」
「そして繭に色々な格闘技を教えたのも彼」
「成程」
「でも繭は強くなり過ぎたね」
「そうだな」
話している事はすごいけど二人は笑っていた
「ちなみにそのパーティーの晩、俺は氷龍に助けてもらってさ」
「うん」
「いろんな話を聞いてくれて、一緒に泣いてくれた」
「昔の話だ」
「同じ匂いがした、それからだよ氷龍が俺の傍にいるようになったのは」
「そう」
「でもさ、人間って人を疑うのが好きじゃない?」
「かもね」
「じゃ、どうすれば信用できるかって考えたんだ」
「うん」
「そして俺が出した答えは一緒に死ぬ事、おかしいだろ?死ぬとかさ・・・でも、一番怖い事でもある」
「・・・・・・・・・・」
「一緒に死んでと言われて死ねる人は何割だろうね、最初は未来を打ち消す事から考える、そして死ぬ事への恐怖を覚える、何も無くなる事への恐怖、無への恐怖」
俺は迷いは無かった
ただの死にぞこないに残されたものは生きている為の酸素だけ
「氷龍は何の迷いも無く頷いた、きっと殺してと言えば殺してくれたと思うよ」
「でも、氷龍は俺に言った・・・やり残した事は無いのかと」
「うん」
「やり残した事はあった、だから今でも生きている」
「そんな話を俺にしてもいいの?」
「いいよ、繭の大切な人だから」
「だから死ぬ代わりにお互い同じ傷をつけ合った、決して裏切らないと言う証に」
「とても理解出来ない何かで繋がっているのかな」
「そう言う事、お茶のおかわりは?」
「うん」
「氷龍はコーヒでいい?」
「ああ」
翔が席を離れ、二人になった
「死ぬのが怖くなかったの?」
「お前も怖くはないだろ?」
「・・・・・・・・・」
「世の中は面白い事で溢れかえっている、そのうちにわかるさ」
「俺には興味無いかな」
「今はまだ物語は始まったばかりだ、最後まで付き合え」
「誰の物語なのかな」
「棘を体中に持ったハリネズミとずる賢い狐、哀れなカッコウと獲物を追わない狼」
「俺も入っているわけね」
「そのうちにわかるさ、どんな物語なのかはね」
「初めてだよ、物語の内容を知りたくないと思ったのは」
「だろうな」
楽しい物語ではなさそうだ
でもいつかはラストを迎える
その時俺は何を思うのだろう
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