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翔達と別れ、部屋に戻って来た
何だろう、二人の話を聞きながら考えた事は千裕の事
千裕の負った傷よりももっと深い傷を持ちながら生きている翔
死ぬ事はやはり逃げる事なのだろうか
その時の感情で死を急がなくても未来は微かに見えていたのではないだろうか
その微かな未来を見つける事が出来なかっただけでは無いのだろうか
「今更か・・・」
「楓」
「おかえり」
「サボった」
「うん」
「授業はサボらない」
「でも体育はね」
「次はマット」
「地味だね」
「サボらない」
「ん~」
「サボらない」
「わかった、マットなら出る」
「うん・・・血」
「ああ、俺のじゃないから」
「誰の血?」
「翔かな」
「体育を途中で抜けた」
「うん、ボールが当たったみたい」
「ボールを当てたのは和海のウサギ」
「えっ?」
「どこにいたの?」
「温室かな、とても綺麗だった」
「氷龍も一緒に?」
「そうだね」
繭からはじめて氷龍の名前が出た
やはり知っていたんだ
「傷を見た?」
「見たよ」
「その意味は?」
「教えてもらった」
「氷龍はとても強いから安心」
「みたいだね、でも和海も強い」
「和海が怪我をしていた、氷龍も怪我をした」
「うん」
「でも和海は卑怯、必ずナイフを持っている」
「じゃ、氷龍の方が強いね」
「うん」
「翔の体を見たよ」
「・・・・・・・・・」
これは賭け
繭の反応を見たかった
「楓は何が知りたいの?」
「体には傷がたくさんついていた、その理由はわかる」
「うん」
「でも、火傷はわからない・・・ただそれだけ」
「僕と翔は二人でしか飛ぶ事は出来ない」
「飛ぶ?」
そして繭が目の前でシャツを脱ぎ捨てた
「繭?」
「これが片方の翼」
「それは」
繭にも同じような火傷の痕がついていた
翔と同じ羽のような傷痕
「風邪をひくよ、服を着て」
「死ぬのは一番楽になれる、でも一番卑怯な逃げ方」
「かもね」
「楓はまだ死にたい?」
「・・・・・・・・」
「楓はまだ死にたい?」
「答える事は出来ない」
「・・・・・・・・・」
繭は黙って部屋を出て行った
仕方ないじゃない
俺はあの時死んでしまったんだもの
どうして生きているのかとか、何故死なないのかとか考えるのも疲れてしまった
そして繭が戻って来た
手には何かを持っていた
「それは?」
繭は黙って一枚の写真を俺に渡した
「これは・・・どういう事?」
意味が分からない
どうして繭が千裕の写真を持っているのかが
「僕は待っていた、楓が来るのをずっと」
「何の話?」
「千裕」
「えっ?」
「でも楓は最後のお別れに来なかった」
「それは」
「その首輪の意味は何もない」
「それ以上何も言わないで」
「楓は千裕が自殺したと思い込んでいるけどそうじゃない」
「えっ?」
「僕達は双子」
「嘘・・・」
でも確かに似ている
俺が間違うほど
「あいつは生まれたばかりの僕を屋敷に連れて行った、僕だけを・・・正確には弟は捨てられた」
「何それ」
「双子は縁起が悪いと言うおかしな宗教を信じていた哀れな父親、母親は黙ってそれに従って弟を見放した、その時点で僕にとって母親も必要のない人間になった・・・千裕はそのまま乳児院へ連れて行かれ、施設で育った」
「初めて聞いた」
「僕はその話を皮肉にも和海から聞いた、だから必死で捜した、翔と二人で」
「それで?」
「生まれた時に離れ離れになって再会したのは冷たい霊安室だった」
「・・・・・・・・・・・」
「警察は自殺で処理をしたけどそうじゃない」
「何故言い切れるの?」
「盗撮マニア」
「えっ?」
「千裕のファンがあの日部屋を盗撮していた」
「盗撮・・・」
「ビデオに全て納められていた」
「どうしてそれを繭が?」
「怖くなった盗撮マニアは警察に向かった、ある事件で氷龍もそこにいた」
「うん」
「その場でそのビデオを見た氷龍は、その場にいた奴らに口止めをしてビデオを持ち帰った」
「その後繭に?」
「うん」
「それで何が映っていたの?」
「楓の首を切った後、慌てて救急車を呼ぼうとした」
「でも、遺書が」
「遺書は無理矢理書かされた物、そいつが千裕を殺した」
「警察には?」
「ビデオは消されて盗撮した奴は殺された」
「千裕を・・・殺したのは誰?」
「欲張りなカッコウ、妻を失い自分の犯した罪に気付いた父親は財産を千裕にも譲ると言い出した・・・本当にまぬけ、今更そんな事をして罪を償うつもりだったらしい」
「それだけの為に千裕を?」
「欲張りと言うか和海は強欲の塊・・・まだ続きを聞きたい?」
「俺には知る権利がある」
「僕はビデオを持っている」
「えっ?」
「警察は信用出来ない、黒を白に塗りつぶすのが得意・・・だから僕が復讐すると決めた」
「今、持っているの?」
「うん」
「見せて」
「・・・・・・・・・」
「繭!」
繭は分厚い本を開き、携帯を俺に渡して部屋を出た
震える手で携帯の電源を入れ、久しぶりに千裕を見た
「こんな事が・・・こんな事がっ!」
全てを知った俺の心はどす黒い血が流れていた
俺の首を切りつけた後、千裕は泣きながら携帯を握りしめていた
そしてその携帯を奪われナイフで脅されながら何かを書かされていた
その後、携帯を受け取った千裕はどこかに電話をかけていた
多分、救急車を呼んでいたんだろう
携帯を置き、俺を必死に呼ぶような仕草をしていた
千裕は死のうとはしなかった
俺を必死に抱きしめていた
生きようとしていたんだ
そして・・・泣き叫ぶ千裕の首をナイフで切り裂いた
そう
和海がね
「許さない・・・絶対に許さない」
漸くわかったような気がした
何故生きているのかの意味にね
深い傷を負った人間は深い憎しみも持っている
だたそれだけの為に生きているんだってね
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