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重すぎる
分厚いしとにかく重い
何とか部屋まで戻りドアの前で葵に声をかけた
「葵、開けて」
「ん?・・・おわっ!」
「一冊かと思ったらこんなに貸してくれた」
一度机の上に置き、本棚に並べた
「まじかっ!」
「何?」
「この辞書、めちゃ高いやつばかりだ」
「えっ・・・」
「普通では滅多に手に入らないものばかりとはね」
「どうしよう」
「いいんじゃないか?」
「う~ん」
いいのかな?
「イオだから貸してくれたんだと思うしさ」
「うん、じゃ頑張らないとね」
「そう言う事!あっ、宿題忘れてた!!」
「そうだった、俺はドイツ語」
「俺はフランス語」
「辛いね」
でも、辞書のおかげで俺の方が先に終わった
葵はまだ悩んでいた
「イオ、わからない所でもあるのか?」
「ううん、終わったから」
「マジかよ・・・」
「これすごくわかりやすいよ」
「サンキュー」
葵に辞書を渡して宿題のプリントを鞄に入れた
「ねぇ、葵」
「ん?」
「ん~、やっぱりいいや」
「何だよ」
「聞いてはいけないような気がするし」
「多分俺の疑問と同じかもな」
「もしかして、繭?」
「だな」
「俺、初めて会った時すごくびっくりしてさ・・・でも、楓は普通だったから千裕ではないんだなって」
「確かに似てるよな、ライブの日の繭は千裕にそっくりだった」
「うん、世の中にはそっくりな人がいるとは聞いた事があるけど本当なんだね」
「だな」
「でも、俺達は何も言わない方がいいのかもね」
「楓が何も言わないんだからその方がいいんじゃないかな」
「うん」
俺は確かに千裕の葬儀に参列して花の中で眠る千裕に最後のお別れを言った
だから千裕では無い事はわかっているけど・・・楓は辛くないんだろうか?
「楓、宿題」
「気にしない」
「宿題」
「明日機材が来るし授業に出られないと思うから」
「楓が全部やるの?」
「そうだね」
「・・・・・・・・・」
「だからライブが終わったらやるよ」
「プリント」
「ん?」
「プリント」
「あるけど」
「僕がやる」
「ダメ」
「楓の苦手な物理」
「・・・・・・・・・・」
「物理など楓の職業には必要のない物」
「かもね」
「なら僕がやっても構わない」
「すごくおかしな思考回路だね」
「早く」
「繭がやったら全問正解になるでしょ?」
「適当に間違える」
「気持ちだけでいいよ」
「宿題を提出しないとライブの日居残り」
「それホント?」
「うん」
「それは困るね」
「だからプリントを」
「じゃ、俺が自分でやるよ」
仕方なくプリントを取り出しペンを持った瞬間睡魔に襲われた
どうして物理って眠くなるんだろう
変位と速度と加速度?
体位と速度の加速度ならわかるけど・・・
落体の運動?
裸体の運動なら知ってる・・・
ダメだ、眠い
だけどライブは絶対・・・居残り・・・だめ・・・
「寝落ちout」
楓のプリントを取り、問題を解いた
僕の宿題はフランス語だしとっくに終わっていた
「楓の回答は5問中2問正解、という事は78点ぐらいでいいかな」
文字を楓に似せて宿題を終わらせプリントを鞄の中に入れた
座ったまま眠っている楓をベッドに運び、顔を見つめた
「僕は千裕じゃない・・・繭」
楓が僕に優しいのは千裕と同じ顔だから
悔しいけどそう言う事だろう
千裕に対しての罪悪感だけかも知れない
もし、僕が捨てられていたら楓は僕と付き合ってくれていただろうか?
楓の瞳も熱を持っていただろうか?
何でも僕に打ち明けてくれていただろうか?
愛してると微笑みながら伝えてくれていただろうか?
そっと部屋を出て、玄関のソファーに腰かけた
「繭?」
「葵」
「こんな所で何やってるんだ?」
「何も」
「おいおい、風邪ひくぞ」
「大丈夫です」
「何か悩み事か?」
水とココアを買い、僕にココアを渡しながら微笑んだ
「どうぞ」
「ありがとう」
「楓の恋人はどんな人だったのでしょう」
「どんなって、繭に似てたな・・・むしろ双子みたいだ」
「そうですか」
「気になるのか?」
「・・・・・・・・・」
「昔のバンドのドラムでさ、仲が良かったよ」
「ドラム」
「とにかく楓の心配ばかりする奴で、何て言うのかな・・・真っ直ぐで素直で可愛い奴だったよ」
「僕は可愛くありませんし」
「いやいや、そうじゃなくてさ・・・俺達のバンドはけっこう荒れてるバンドだったけど、そいつが加入した途端、まともなバンドになってさ・・・気付いたら付き合ってたって感じかな」
「そうですか」
「イオも可愛がっていて、もちろん俺も好きだったな」
「・・・・・・・・・・」
「そいつが死んだ時、俺達は本当に辛くて悲しかった・・・でもそれ以上に楓は」
「少しは変わりましたか?」
「ん?」
「楓」
「そうだな、少なくとも昔の楓は誰かを助けるような人間では無かったし誰に対しても無関心だった、だから無理矢理この学園に連れて来た事は間違いでは無かったと思っている」
「僕の存在が楓や葵達を苦しめているとは思いませんか?」
「思わないね!繭は繭だし」
「・・・・・・・・・」
「だからそんな事を考えるな、楓は嫌な人間に対しては自分からは絶対近付かない奴だ」
「はい、もう寝ます」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は僕
千裕ではない
それがわかっていて楓は僕の傍にいてくれているのだろうか?
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