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次の日、楓は早くから講堂で準備を始めていた
ギターを弾くだけじゃなくて細かいチェックをしている楓の瞳は真剣だった
ここにいる楓は生きている、そう感じた
「楓」
「繭、おはよう」
「おはよう」
「機材が搬入される前にこれだけやっておかないとね」
「うん」
何をしているのかはわからないけど楓は動き回っていた
僕の応援ライブなのにすごく真剣な楓
「こんな感じかな、後は機材が来てからにするね」
「うん」
ステージから降りて来た楓はいつもの楓だった
「ん?」
「今日の朝食はオムレツとサラダと人参スープ」
「繭の頭の中にはメニューが全て入っているみたいだね」
「うん」
「戻ろうか」
「うん」
普通に繋いでいた手も繋ぎにくい
やっぱりステージの上の楓はすごくカッコいい
「繭?」
「・・・・・・・・・」
「早く行かないとパンが無くなるかもよ?」
そう言って僕の手を握りしめた
すごくドキドキした
こんな気持ちは知らない
心臓がすごく痛い
「じゃ、座っててね」
「うん」
僕は楓だけを目で追っていた
だけど、ハエが視界を遮った
「気分が悪い」
「楓のバンドで応援とは考えましたね」
「お金をバラまくよりはいい」
「人間が一番愛してやまないものはお金ですよ」
「邪魔」
「今日はナイフもフォークもありませんね」
「死ねばいい」
テーブルの上に置かれた花瓶の中のバラを掴み、和海に向かって突き刺した
「朝から優雅ですね、でも私はバラは嫌いです」
そう言ってバラの花を握りしめ床に落とした
「俺の花好きを全否定?」
「翔様、そんな事は」
「あのさ、このバラは俺が育てて漸く綺麗に咲いてここに活けたんだけどお前最低」
「申し訳ありません、バラならすぐに」
「勘違いするなよ、俺が育てたと言っただろ?」
「・・・・・・・・・・」
「和海って昔からそうだよな?俺が大切に育てていた花を踏みつけたりしてさ」
そうだった
和海は翔が一生懸命育てた花を踏みつけた
花が開く直前まで待ってね
「子供の頃の話でしょ?」
「翔、和海は動かない花よりウサギが好きな事を忘れたの?」
楓が戻って来た
「ライブ、楽しみにしていますよ」
「お前は出禁」
「本当に楽しみです」
「そろそろ消えて欲しいんだけど」
「翔様、あちらに美味しい食事を用意させます」
「俺、野菜は嫌いなんだけど・・・」
「わかっていますよ、冬矢の為に生徒会長候補を降りたのでしょ?」
「あいかわらずおめでたい思考回路だね」
「翔、行きましょう」
和海が翔の腕を掴もうとした瞬間、氷龍が和海の手首を掴んだ
「邪魔だ」
「氷龍、お前は本当に犬ですね」
「消えろ」
「仕方がありません、ではまた」
本当にムカつく
「翔、大丈夫か?」
「ありがとう、氷龍」
「楓は両手が塞がっているしな」
「確かに」
そう言って朝食を乗せたプレートを僕の前に置いた
「お待たせ」
「ありがとう」
当たり前のように置かれたたくさんのパン
楓は僕の事、少しは理解してくれているの?
「どうしたの?パン足りない?」
「ううん、いただきます」
今の楓を好きになっても無駄
僕はただ待つしかない
「おはよう!」
「おはよう、楓座らないの?」
「葵、華おはよう」
僕は華を見つめ、パンを口の中に入れた
「繭、もしかしてにらまれてるのかな?」
「生まれつき」
「そっか」
「そうだ、機材の搬入は何時だ?」
「1時かな」
「わかった、俺達も行くから」
「うん」
「僕も行く」
「繭も?」
「行く」
「退屈だと思うけど」
「行く」
「わかった」
楓はダメとは言わない
それは僕の中に千裕を見ているから?
「繭、今日は食欲が余りないみたいだけど」
「そんな事無い」
パンを口の中に押し込み、ミルクを飲んだ
「ゲホッ!」
「大丈夫?」
「うん」
楓は優しい
千裕が楓を変えたんだ
僕より千裕の方が楓の事を何でも知っているんだ
僕がどんなに頑張っても楓との距離は縮まらない
「繭、そろそろ行かないと遅刻するぞ」
「うん・・・」
「楓達は講堂に行くんだよな?」
「そうだね」
「じゃ、俺達は学園に行くから」
「繭、待ってるね」
「うん」
翔と学園に向かいながらいろいろな事を考えていた
「あのさ、繭」
「うん」
「人ってずっと同じ人しか愛せないと思うか?」
「わからない」
「報われない恋ばかりだったら未来は暗いしシングルが増えるな」
「・・・・・・・・・・・」
「人間は寂しい生き物だから、傍にいてくれる人間を選ぶ事もあるんじゃないかな~」
「慰めてるつもり?」
「さぁね」
「葵も華も千裕を知っている」
「で?」
「だから僕を見ると思い出すんじゃないかなって」
「思い出したらどうなるんだ?」
「どうなるって・・・」
「何も変わらないさ、実際そうだろ?お前は考えだすとすぐ悪い方へ考えるのが悪い癖だ」
「・・・・・・・・・・」
「そんな暗い顔をしていたら投票数が減るぞ!前を向いてお前らしく気高く歩け」
「翔」
「和海に付け込まれるぞ、いいのかそれで」
「嫌」
「じゃ、お前らしく行け」
「わかった」
僕が傍にいればいつか僕だけを見てくれるのかな
千裕ではなく僕を
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