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「楓、夜遊びが飽きたら今度はぼんやりか?」
「・・・・・・・・・」
「ライブは明後日なんだぞ!」
「明後日」
「だから真面目にやれ」
「葵」
「何だ?」
「用事を思い出した」
「はぁ?ふざけるな!」
「すぐ戻る」
「ったく・・・」
俺はスタジオを飛び出して電車に飛び乗った
人がまばらになるのをぼんやり見つめていた
みんなそれぞれ帰る場所があるんだね
俺の帰る場所はどこなんだろう
うんざりするような騒がしい街?それとも・・・
終点で降りてまた電車に乗った
最終にギリ間に合った
寂しくなっていく景色を見つめ、ノートに何度も文字を書いた
外灯が寂しい駅で降り、当然バスはもう走っていないから駅のベンチでタクシーを待っていた
「来た」
タクシーに乗って一時間
見慣れた場所まで戻って来た
「深夜1時・・・」
苦笑しながら門を飛び越え、寮まで走った
結構距離があるから歩ていたら朝になりそうで必死に走った
これ以上闇に飲み込まれないように
「明かりがついてる」
消し忘れ?それともまだ起きている?
裏口から寮内へ入り、部屋に向かった
自分の部屋なのにドアの前で開けるのを躊躇う
でもこのまま帰ったら後悔しそうで
「誰?」
繭の声だった
無言でドアを開けて中に入ると繭はパソコンで何かを打ち込んでいた
俺は何も言わず、破ったノートの切れ端を繭の机の上に置いた
繭は無言でそれをゴミ箱に捨てた
このままならそれはそれで仕方が無い事
だけど繭が見てくれたら
そのまま部屋を出て、待たせていたタクシーに乗りスタジオに戻った
「おいおい楓さん」
「ただいま」
「お前のすぐ戻ると言う用事は半日もかかるのか?すぐの意味を教えてくれ」
「じゃ、始めよう」
「話を聞け!」
話しかけても答えてくれないのならあの紙切れに全てを託すしかない
あのまま燃やされてしまってもそれはそれ
俺が悪いんだしね
足音が聞える
この足音は・・・まさかね
ドアの前で止まった足音は動く気配がない
だから声をかけるしかなかった
部屋にやって来たのは楓だった
もうどうでもいい
パソコンに入力しながら何も話さない楓の気配を伺っていた
何をしに戻って来たんだろう
こんな深夜に
そして机の上にノートの切れ端を置いた
僕はそのままそれをゴミ箱に捨てた
楓は何も言わず部屋を出て行った
どうでもいい
「・・・・・・・・・・」
仕事が終わったのは明け方
ゴミ箱は溢れかえっていた
楓が置いて行った紙切れを拾い上げ、中を開いた
「・・・・・・・・・・・・」
紙切れに書かれた文字にすぐ気付いた
鏡など必要のない短い文字を見つめ、初めて動揺した
僕が許す?
そんな事はあり得ない
だけど、この下手くそな文字には心がこもっていた
この文字を書いたと言う事は、僕の暗号に気付いたと言う事
「繭、起きてた?」
「翔」
僕は紙切れを握りしめ、翔を見つめた
「楓、少し寝ろ」
「大丈夫、このまま行くよ」
「だけどさ」
今日はライブの日
やる事は山済みで今寝てしまったら永遠に目が覚めないような錯覚まで起こす有様だった
「本当に大丈夫か?」
「うん、リハを始めよう」
「わかった」
やはりこのギターは手に馴染まない
だけど仕方が無い
あのギターは使えない
「なんかもう、お前を見ていると痛々しくて」
「見なければいい」
「そう言う問題じゃないっての!」
もうすぐ開演時間
こんなに開演時間が長く感じた日は無かった
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