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部屋に戻ると楓が心配そうに僕を見つめた
「楓」
「繭、お腹空かない?」
「平気」
「何も食べていないでしょ?」
「今はいらない・・・楓」
「どうしたの?俺には何でも話して欲しいな」
そう言って僕を膝の上に乗せて微笑んだ
楓は優しい、僕が一番わかっている
「楓はずっとバンドを続けるんだよね?」
「そうだね」
「うん」
「来月にライブがあるから来て欲しいな」
「行く」
「翔とおいで」
「必ず行く」
「待ってる」
「楓」
「ん?」
「ううん、頑張って」
「ありがとう」
大切な事がどうしても言えない
楓は将来、僕とどうしたいんだろう
いつまでも学生ではいられない
でも、僕が結婚しなければ卒業と同時に全てを失う
全てを失った僕はただの人間に過ぎない
「楓は将来の事とか考えてる?」
「将来?」
「卒業したらどうするの?」
「都内に暮らしてバンド活動を続けると思うよ」
「うん」
「でも、繭は忙しくなるんだろうね・・・想像したくはないかな」
「もし、会社の事とか全て忘れたとしたら楓は僕にどうして欲しい?」
「全て忘れたとしたらか・・・」
「うん」
「繭に傍にいて欲しいかな」
「傍に?」
「マネージャーとかしていつも傍にいて欲しい、夢のまた夢の話だけどね」
「うん」
「繭は卒業したら俺の手の届かない人になりそうで怖いけどね」
「そんな事は無い」
「そう願いたい」
「楓の気持ちが変わるとしたらどんな時?」
「気持ちは変わらない」
「例えばの話」
「繭にフラれた時かな」
「・・・・・・・・・・」
「もしかして俺をフル予定でもあるの?」
「無い」
「よかった」
「楓は僕の何が好きなの?」
「繭の?」
「うん、家柄?財産?」
「馬鹿な事言わないで、そんな物に興味は無い」
「じゃ、何?」
「俺は繭が好きなんだよ、繭と言う人間が好き、だから財産とかどうでもいい」
「・・・・・・・・」
「じゃ、逆に尋ねるけど」
「うん」
「もし、俺がギターを弾けなくなったら嫌いになるの?」
「ならない」
「そういう事でしょ?」
「うん」
楓がギターを弾けなくなったとしても僕は楓が好き
「今日の繭、少し変だね」
「気のせい」
「本当?」
「うん、さっきの話はどうでもいい話だった」
「そう」
「翔に伝言があったから」
「うん」
僕は嘘をついた
楓を心配させたくないから
でも、自分の気持ちが決まっていないから真っ直ぐ楓を見つめる事が出来なかった
「何か心配事があるのなら俺に頼って欲しいな」
「何もない」
「そっか」
「楓が好き」
「俺も好きだよ」
「すごく好き」
楓に抱き着いて顔を埋めた
「じゃ、態度で示さないとね」
そう言いながら僕に優しくキスをした
こんな関係がその先も続く保証は無い
「繭、愛してるよ・・・ずっと愛してる」
「ずっと愛せるの?」
「どうしたら信用してくれる?」
「右手を僕に頂戴」
「えっ?」
馬鹿みたい
子供でもあるまいし、無茶な事を言った後に後悔した
「いいよ」
「えっ?」
「それで繭が信じてくれるのならあげる」
「バンドはどうするの?」
「繭がいてくれるなら、ギターを弾けなくてもいい」
「無責任」
「そうだね、でもいいんだ」
「仕事は?」
「出来る仕事を探す、繭には頼らない」
「・・・・・・・・・・」
「でも、ステージの上の俺が好きなら困るけど」
「楓は楓だから」
「じゃ、あげる・・・俺の右手」
「冗談」
「俺は本気だよ、繭が一番大切」
「僕も」
楓の言葉に嘘は無い
なのに僕の言葉は嘘ばかり
だけど僕の心は決まった
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