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学園祭も残すは後夜祭か
繭は会長だし色々と忙しそう
「燃えてるね」
「うん」
みんなで作った看板や飾りが燃やされていた
なんだか寂しいね
全て灰になるんだね
「楓」
「繭」
「終わったね」
「そうだね、大変だったけどあっという間だった」
「うん」
「繭もお疲れ様」
「僕はまだ仕事があるから先に帰ってて」
「わかった」
忙しいのにわざわざ俺を捜して来てくれたんだ
きっと大人になったら凄くモテるんだろうね
俺にはそんな気遣いは出来そうに無い
「楓、もうすぐ花火だぞ」
「翔」
「今年は花火に予算をつぎ込んだから見た方がいい」
「うん」
「繭は来たか?」
「さっきね」
「終わるまで会長は忙しいからな」
「副会長は?」
「もちろん忙しいけど・・・まぁ気にするな」
「サボりね」
「おっ、始まった!」
綺麗な星空に季節外れの花火が咲いていた
花火を見たのは何年振りだろう
「綺麗」
「繭は楓に花火を見せたかったんだろ?」
「俺に?」
「見たくなかった?」
「ううん、嬉しい」
「そっか、おっ!ダリアの花の花火だ」
「すごい」
「綺麗だな~」
俺達の顔が花火の色に染まる
赤や青の光が空に舞う
楽しいとか、嬉しいとか、そんな感情がまだ残されていたなんてね
去年の俺には考えられない世界がここにあった
「花火は儚いな」
「儚くても心には一生残る」
「だな・・・俺はまだ仕事があるけど楓はどうする?」
「俺は戻るよ」
「わかった」
本当に夢のような二日間だった
燃えていた炎は全てを灰にして消えようとしていた
悲しい感情や恨みも全て焼き尽くせたらいいのにね
綺麗な花火も綺麗だとは思えない
それは心が錆びついているから
俺は何をしているんだろう
こんな所で一体何を
「一人とは珍しいな」
「冬矢様」
「行かなくてもいいのか?」
「呼ばれていませんので」
「それはお気の毒様・・・と言って欲しかったか?」
「いえ」
見回りをしていたら一人で花火を見つめる燕羽を見つけた
和海の所にも余り行っていないようだが・・・
「繭は裏切者を絶対許さないんだよ」
「・・・・・・・・・・」
「お前は何の為にふらふらしているんだ?」
「冬矢様にはわかりません、俺の気持ちなんて絶対」
「わからないね、だって俺はお前の事を知らないし」
「・・・・・・・・・」
「お前の本心なんかお前にしかわからない・・・当然繭達にもわかるわけがない」
「俺はこの学園しか居場所がないんだ・・・だって俺はっ」
「母親の連れ子は全てを我慢しなければいけないのか?」
「なっ!」
「これはあくまでも俺の推測だが、お前は母親の為にここに来たんだろ?」
「それは」
「ここに来て、和海のご機嫌をとれば義理の兄弟は出世を約束される」
「家でも俺の居場所なんか無かった、母親はいつも父親の機嫌ばかり取っていた・・・でも、そんな母親でも俺の母親なんだ・・・泣いて頼まれたらどうしょうもないだろっ!」
「捨てられるからお前が何とかしろと言う事か?」
「そうだよ!悪い?」
「いや、母親想いのいい子ちゃんだ」
「・・・・・・・・」
「せっかく出来た友人も失った、それすらお前にとっては道具にすぎなかったのか?」
「違う!そんなんじゃない・・・だけどっ」
「繭に取り入っても何もしてくれない、だから和海と繭を天秤にかけた・・・結果お前は全てを失う事になる」
「和海様はそんな事しない」
「あいつは平気で人間を殺すような奴だぞ」
「だけど兄を」
「気が変わればすぐに切られる」
「・・・・・・・・・・」
「お前の人生は誰のものなんだ?」
「俺の・・・」
「母親が大切なのはわかるが、それは親の問題だろ?捨てられたくないと言ったところでお前には関係のない話だ」
「もうどうしようもないだろ!」
「お前の本心を聞いているんだ、これからも母親の為に自分を犠牲にするのかと聞いている」
「それは・・・」
「そもそもお前の兄もお前を頼るようでは出世など望めないけどね」
「・・・・・・・・・・・・」
「それとも、お前が親離れできないのか?」
「違う!」
「和海との約束など信用するな」
「じゃ、どうしたらいいんだよ!もうわからない・・・」
「お前はどうしたいんだ?これからも和海のペットでいるつもりか?」
「俺が裏切ったら兄の出世が消えてしまう、そんな事になったら」
「お前の兄の力はその程度と言う事だ」
「・・・・・・・・・・」
「利益を生み出す社員なら簡単には切ったりしない」
「俺は・・・」
「せっかくの学園祭も豚じじぃの相手をしている自分をどう思った?」
「すごく嫌だよ、当たり前だろ」
「じゃ、これからどうするつもりだ?」
「どうするって、繭達はもう許してくれない・・・でも一人になるのは嫌なんだ」
「二度と裏切らないと約束できるか?」
「誰に約束するの?俺はもう・・・っ」
「お前は誰といたいんだ?」
「繭達だよ、だけど無理だから」
「反省しているんだ、今回は許してやってくれないか?」
「えっ?」
驚いた
木の陰から繭と翔が出て来た
でもすごく冷たい表情
「こんな茶番を見せる為に呼んだのですか?」
「時間の無駄だろ?」
「繭、翔!ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・俺っ」
「一度裏切った人間は何度も裏切る」
「そういう事だ、親友も裏切ったわけだしな」
「それはっ・・・それは・・・俺だって心の底から笑いたい、だけどっ」
「話になりませんね」
「だな、お腹空いたし帰るか」
やはり許してくれない
当たり前だよね、俺が悪いんだ
「おや、皆さんお揃いで・・・燕羽、お客様が貴方の事を気に入ったようですよ、早く行きなさい」
思わず拳を握りしめ、唇を噛み締めた
「和海様、俺は・・・何なのですか?」
「ウサギでしょ?それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうですよね・・・俺はうさぎ、ただ大人しくご主人様の言う事を聞く・・・」
「早く戻りなさい」
「もうたくさんだ・・・俺は俺だろ!」
ポケットからナイフを取り出し、思い切り突き刺した
「成程、やはりお前はうさぎ以下でしたね」
勝てる訳ないよね
でもいいや・・・殺された方が楽になれるかも知れない
ナイフを奪われ、そのナイフで刺されるなんてね
すごく痛いよ・・・心が痛い
「和海、やり過ぎだ」
「冬矢が私に反論ですか?」
「あのさ・・・お前消えろ、目障りだ」
「翔様」
「消えろって言っているんだ、それとも俺がお前を刺してやろうか?」
「わかりました、では」
俺なんかそんなもの
ゴミのようにしか扱ってもらえない
家でもそうだった
父親の顔色ばかり伺う母親
俺の居場所はどこにも無かった
でも、そんな母親が俺に泣きながら頼み込んだ
それでも俺は嬉しかったんだ
まだ俺が見えているんだと・・・そう思ったから
母さん、また二人で暮らそうよ
裕福ではないけれどそこには笑顔があったよね
俺はそれだけで十分幸せだったのに
どこで歯車が狂ってしまったんだろう
もう戻れはしないんだ
平凡な生活でも俺は・・・
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